1月に読んだ本

1月の読書メーター
読んだ本の数:14
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能・狂言/説経節/曾根崎心中/女殺油地獄/菅原伝授手習鑑/義経千本桜/仮名手本忠臣蔵 (池澤夏樹=個人編集 日本文学全集10)能・狂言/説経節/曾根崎心中/女殺油地獄/菅原伝授手習鑑/義経千本桜/仮名手本忠臣蔵 (池澤夏樹=個人編集 日本文学全集10)感想
「女殺」は人物描写が濃やかで、心細げな殺人鬼与兵衛は勿論、情の深さ故に葛藤を抱えるお沢が魅力的。性根心根が見目と同じに生来のものなら、それを持て余し苦しむ与兵衛の苦悩は哀れでとても人間らしい。「菅原」は三つ子それぞれの末路に注目しながらも、命の使い方や死の美学に目が行く。生きてさえいればという現代感覚のさもしさを思う。「義経」は訳者らしい朴訥さが味わい深く、中でも源九郎狐を描く筆は生き生きと楽しい。「曽根崎」「仮名手本」死に急ぐ姿は観客の生死観と憧れを反映してのことかと、当時の受容のされ方が気になる。
読了日:01月05日 著者:
日本語と日本人の心 (岩波現代文庫―文芸)日本語と日本人の心 (岩波現代文庫―文芸)感想
冒頭の河合先生の話では「日本語は世界の中の方言」という発言の他はあまり頭に残らず。けれど対談になってからは恐ろしい密度で、今回一読しただけでは到底理解に及ばない。主語の省略や表音文字と表意文字の混在、書き言葉と話し言葉の乖離など、論点に目新しさはないものの、心理療法士と小説家と詩人それぞれの視点は興味深い。中でも大江さんの主張は、日本語の非論理的な魅力を論理的に表現するというようなもので、理解は出来たが共感できず圧迫感を覚えた。曖昧さを曖昧なまま受け入れ表現する、河合先生や谷川さんの感覚に親しみを感じる。
読了日:01月08日 著者:大江 健三郎,河合 隼雄,谷川 俊太郎
私はフーイー 沖縄怪談短篇集 (幽BOOKS)私はフーイー 沖縄怪談短篇集 (幽BOOKS)感想
他作に比べやや荒削りで小粒な印象、けれど表題作はとても良かった。発表時期は前後するが、先日読んだ「竜が最後に帰る場所」を彷彿とさせる。南の島に流れる時間の雄大さ、その中で繰り返し現れては消えるフーイーと、限られた時間を生きる繰り返さない島民たち。戦火の中を山羊になり白鷺になって駆け抜けるフーイーは、翔び立った崖に戻ることはない。たとえ故郷の島に辿り着けなくても。際限なく繰り返しながら戻ることだけはない、出来るのはさらに進めることだけ。たとえその先には破滅しかなくても。月並だがフーイーに人類の行末が重なる。
読了日:01月10日 著者:恒川光太郎
国づくりのはなし~オオクニヌシとスクナビコナ~: 日本の神話 古事記えほん【五】 (日本の神話古事記えほん)国づくりのはなし~オオクニヌシとスクナビコナ~: 日本の神話 古事記えほん【五】 (日本の神話古事記えほん)感想
黄泉平坂での別れといえば、思い出すのはイザナギとイザナミ。この夫婦の決別に対し、スセリビメをオオナムヂに託し送り出すスサノオの、なんと巨きなことだろう(ナギナミ夫婦の呪い合戦もスケール大きくて好きだけど)。思うにスサノオは地上にクシナダヒメを残し、かねてより慕っていた未だ見ぬ母に会うため根の国まで下ってきたのだ。けれど若く美しいスセリビメをそこに留めておくのが哀れになったのかもしれない。ヒメの母親について記紀は触れていないけれど、地上から連れてきたクシナダヒメとの娘だと考えてみるとまた感慨深い。
読了日:01月14日 著者:荻原 規子
[現代版]絵本 御伽草子 うらしま (現代版 絵本御伽草子)[現代版]絵本 御伽草子 うらしま (現代版 絵本御伽草子)感想
巻末の原文(読みやすい!)→本文の順。浦島の話が「兄」の一言から始まると、連想するのは神話の海幸彦山幸彦。しかし本書では、老父母とともに家に残された太郎の妹が、兄を探して亀ならぬ瓷を道案内に竜宮城へ辿り着く。桃源郷とは程遠い竜宮城のありさまと、太郎がそこに囚われていることの理由。その薄ら寒い水底を写しとる、ヒグチさんの執拗な描線。思えば深海の生き物は、みな一癖ありそうな姿をしている。だあれだ、と戯れかかる幼い人魚は金襴緞子、贅沢な玩具を持っていても遊び相手がいないのではね。御伽噺の暗部は深い。
読了日:01月16日 著者:日和 聡子,ヒグチ ユウコ
[現代版]絵本 御伽草子 象の草子 (現代版 絵本御伽草子)[現代版]絵本 御伽草子 象の草子 (現代版 絵本御伽草子)感想
原文→現代語訳をネットで確認→本文。象の僧が師の僧に梵語をもごもご通訳し、解き放たれた猫と追い詰められた鼠の仲立ちを務める。原典がそもそも面白いのだけど、本書オリジナルの象の僧がたいそう魅力的。山月記やバンクシーなどのパロディににやりとしつつ、語りの面白さを万倍にもする装画を隅まで味わう。桃色の像といえば酩酊時の幻を思い浮かべるが、アルコールのかわりに漂うあんもらかの強い香りにのせて語られるのは、そこだけ改変がほぼない僧の説法。原典でもここが肝だろう。出えじぷとに倣うラストは鼠たちの英断を華々しく彩る。
読了日:01月17日 著者:堀江 敏幸,MARUU
[現代版]絵本 御伽草子 木幡狐 (現代版 絵本御伽草子)[現代版]絵本 御伽草子 木幡狐 (現代版 絵本御伽草子)感想
原文→ネットで現代語訳を確認→本文。これが「聊斎志異」あたりなら、才色兼備の良妻賢母なんて狐だろうが幽鬼だろうが大歓迎で大団円、なんてのも珍しくない。異類じゃなくても婚姻譚に別離が多いのは何か理由でも、なんて思いながら読んでいたら、改変された現代版はさらにとんでもなかった。人間社会の乗っ取りを狙う女狐たちの育成学校だなんて、森見登美彦でも読んでいる気分。人の身の哀れを語るきしゆを見ていると、たしかに彼女の痛快なまでの執着の無さは、人より悟りに近いのではと思う。コケティッシュな装画もとても素敵。
読了日:01月17日 著者:藤野 可織,水沢 そら
[現代版]絵本 御伽草子 鉢かづき (「現代版」絵本御伽草子)[現代版]絵本 御伽草子 鉢かづき (「現代版」絵本御伽草子)感想
大胆に洋装で描かれた鉢かづき。ラスト近く意地悪な兄嫁たちとの挿画を見て、和製灰かぶりの別名を思い出す。本書はこの作画の面白さと、鉢かづきのヒロインらしからぬ図太さ、野生児じみた野への憧れ(鉢かづきの抱く野兎が彼女自身に見える)が強く印象に残る。風呂炊き仕事に忙殺される鉢かづきが、音楽や物語を恋しく思い出し、その必要性を語るくだりには、筆者のメッセージを感じて嬉しくなる。今回はネットで探して現代語訳を先に読み、原文は長さに挫折。いつか再挑戦したい。本書の鉢かづきくらいさばけた性格なら原文も頑張れそうなのに。
読了日:01月19日 著者:青山 七恵,庄野 ナホコ
[現代版]絵本 御伽草子 はまぐりの草紙 (「現代版」絵本御伽草子)[現代版]絵本 御伽草子 はまぐりの草紙 (「現代版」絵本御伽草子)感想
ネットで現代語訳を確認→原文(読みやすい!)→本文。シリーズをまとめて借り出してきた時、一番心惹かれた表紙が本作でした。挿絵もエキゾチックで素敵。お話の筋に改変はないものの、原文の?な箇所いちいちにツッコミを入れる橋本さんの筆が小気味良く、熟れた講師の小咄を聞いている気分になる。頻出する「はまぐり出身」表現が楽しくて、どこかにはまぐり県が存在している気などしてくる。古典を読んでいるつもりがいつのまにかメタファンタジーに!という最後の一文まで、橋本さんのサービス精神が光る楽しい本でした。七千年は長いわあ。
読了日:01月20日 著者:橋本 治,樋上 公実子
[現代版]絵本 御伽草子 付喪神 (現代版 絵本御伽草子)[現代版]絵本 御伽草子 付喪神 (現代版 絵本御伽草子)感想
絵は京極読者にはおなじみの石黒亜矢子さん、絶妙にまるっこく愛嬌あふれる器物の妖怪たちの姿が楽しい。町田康は宇治拾遺物語の現代語訳と本作しか私は読んでいないのだけど、これを作風と思ってよいのかどうか。とにかく軽いうえにも軽い若者言葉がいっそ小気味よく、バリアにビームが炸裂するスペクタクル妖怪バトルが展開する。サクサク音がしそうなくらい簡単に人が死んでいくが、人と物が反転しても人の所業の方がまだ酷いだろうな。原文は冒頭こそ読みやすいものの、後半に入り仏教用語が頻出するようになってからは難解で、素直に諦めた。
読了日:01月20日 著者:町田 康,石黒 亜矢子
千年後の百人一首千年後の百人一首感想
触れるその時々で好きな歌が変わり、振り返って自分の変化を知る。どんな時代も変わらずに在り続ける百人一首の偉大さを思う。この本で惹かれたのは47「八重葎しげれる宿のさびしきに 人こそ見えね秋は来にけり」恵慶法師。誰も足を踏み入れたことのない奥山に塗り込められたような一面の紅葉、そこには歌人の目も届かない。歌意からは外れるけれど、そんな凄絶な景色を想像してしまう。清川さんの作品は印刷だと糸の艶やビーズのきらめきが埋もれてしまう、けれどそこに最果さんの言葉が乗ると、不鮮明さは薄紙越しの柔らかな鷹揚さになる。
読了日:01月23日 著者:清川 あさみ,最果 タヒ
はこぶはこぶ感想
【3歳3ヶ月】長らく不振だった息子本、久しぶりのヒットは安定の鎌田歩さん。本作は「ぎんちゃん」「ぷるたくん」のようなお話のある本ではないけれど、大好きな乗り物がこれでもかと詰め込まれた表紙を見るなり息子の目は輝く。本を開くと原始人のおじさんがたくさんの果物を前に「はこべるかな?」素手で抱える、袋に入れる、牛に牽かせる、車が登場、船に飛行機に、最後はロケット!しかもこの宇宙飛行士さん、よく見ると。。大人も一緒に覗き込んで楽しめる、シンプルだけど飽きのこない素晴らしい絵本です。明るく優しい色遣いの絵が大好き。
読了日:01月23日 著者:鎌田 歩
サイコパス (文春新書)サイコパス (文春新書)感想
チャンドラン「脳の中の幽霊」で知った神経科学の面白さ。フィクションをきっかけに興味を持ちつつも、偏見と誤解を自覚しているサイコパスについて、話題の本書で触れてみる。文章は平易で専門用語は少なめ、読書好きでない人にも通読しやすそう。著者は脳科学者でチャンドランとは専門が違うが、例に挙がる症状や人名には共通のものがいくつもあった。サイコパス(反社会性パーソナリティ障害)の心理的・身体的特徴(不安や恐怖を感じない、心拍数が少ない等)やそれがもたらす社会的影響の他、自分自身をどう見ているかという内容が印象的。
読了日:01月25日 著者:中野 信子
ほの暗い永久から出でて 生と死を巡る対話ほの暗い永久から出でて 生と死を巡る対話感想
軽い気持ちで手に取り、冒頭の蓑虫の話にはっとして襟を正す。そのまま息を詰めるように読み終え、深い深い溜息を吐いた。肺癌の進行していく母親を見守りながら、生と死について尽きせぬ問いを繰り返す作家。それは私にも覚えのあるもので、けれどいつか問うことを諦めていたもの。天の采配によって巡り合ったとしか思えぬ医師は、縦横に例を引きながらその問いをさらに深くする。有性生殖の限界、種の存続と個体の死、進化の果て。死を間に置く二人から繰り言は聞かれず、あるのは刺激的な話題の飛躍と不思議な清々しさ。何度も読み返したい本。
読了日:01月26日 著者:上橋 菜穂子,津田 篤太郎

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