2月に読んだ本

2月の読書メーター
読んだ本の数:14
読んだページ数:1781
ナイス数:480

翻訳できない世界のことば翻訳できない世界のことば感想
絵本と勘違いした息子が「これ読んで」、君には難しいと思うけど?「いいから」。私のよむ異国の言葉を曖昧に復唱し、画から自分の知るものを探して喜ぶ。彼を見ていると、文字を覚える前の耳の良さと、案外正確なそのイメージ力に驚かされる。ウェールズ語の「hiraeth」やズールー語の「ubuntu」に詩情を感じてしんみりする中、トゥル語の「karelu」を日常語彙に輸入できないものかと思案する。衣服のしめつけの跡だなんて、絶妙に愉快で愛らしいじゃないの。言葉が生み出された背景も気になる、一体どんな服飾文化の中で?
読了日:02月01日 著者:エラ・フランシス・サンダース
太陽と乙女太陽と乙女感想
例えばデッサンでは、一部分ずつ描き込みながら完成させる人と、全体に均一に手を入れながら完成させる人がいる。前者は全体のバランスを取り辛いために良くない例とされるけれど、例外的に面白い作品を仕上げてくる人がいる。森見さんの文章はその例外をいつも思い出す。凝りすぎて破綻を抱えても押し通し、読み手にそれを呑み込ませる力技の愛嬌。正直内容は二の次で、この文章を愛でて楽しみたいだけなのだ。お腹の底からぷつぷつと沸き上がる愉快な音楽、愛すべき森見登美彦節。赤玉ポートワインを愛飲した曾祖母さんのエピソードが素敵。
読了日:02月05日 著者:森見 登美彦
いっさいはんいっさいはん感想
これは絵本だけど完全に大人向け。ネタはシンプルなあるあるだけど、イラストの愛らしさとページへの詰め込み方でかなりお得な気分になる。ついこの間までいっさいはんだった気がする息子のいちいちを思い出し、楽しくなったり切なくなったりせわしなかった。中でもおむつ替えと歯みがきのときの、ホールドの仕方がまったく同じで苦笑いしてしまう。今ではすっかりお兄ちゃん気取りの3歳児だけど、それも数年後十数年後に振り返ってみれば懐かしく愛しいものなんだろうな。息子の残り少ない幼児期を大切に過ごしたいと改めて思いました。
読了日:02月06日 著者:minchi
私たちの星で私たちの星で感想
例えばこのお二方がアニミズムを話題にするなら、どんな深みと飛躍を見せてくれるだろう、と思う。あの世界観の中でのびやかに歩いて筆をとる梨木さん。まさか素朴すぎて論外ということはないだろう。宗教はいつも不可解で興味が尽きず、入門から軽い哲学までそれなりに読んできた。一神教はまず神ありき、神のために人間が存在し、だからこそ神の名のもとに戦争が起こる。このことが頭にあったため、カリーマさんの言葉には端々で驚かされた。生きた個人の信者を知るまでは予断を持つまいと構えていたけれど、やはり本はどこまでも人ではない。
読了日:02月07日 著者:梨木 香歩,師岡カリーマ・エルサムニー
命の意味 命のしるし (世の中への扉)命の意味 命のしるし (世の中への扉)感想
「ほの暗い永久から出でて〜」からの流れで手に取る。上橋さんの生死観が児童書の枠の中でどのように語られるのかと思ったのだが、開けてみればお相手の斎藤先生のお話の方に興味を持って行かれた(上橋先生はお話を引き出すのがお上手なのかも)。お二方に共通するのは自然への感覚で、それは破壊したり守ったりする対象ではなく、人間もその中に含まれる全体を指す。人と鳥という境界を超え、ひとつの命と命として対等に向き合おうとする斎藤先生の姿に胸打たれた。数十年も現場に立ち続けている方の言葉は、ありふれたもののようでもやはり重い。
読了日:02月10日 著者:上橋 菜穂子,齊藤 慶輔
なくなりそうな世界のことばなくなりそうな世界のことば感想
アイヌ語「イヨマンテ」は、中沢新一「熊から王へ」で詳しく読んだ熊送り儀礼のこと。ワヒー語「プルデュユーヴン」=家畜に乳を出す気にさせるという語にも、イヨマンテと似たにおいを感じる。どちらも熊や家畜は霊のある一個の生き物として扱われているのだろう。「マラミク」は話者のいなくなってしまった大アンダマン混成語でいう死後の世界だが、それは夢の世界でもあるらしい。ならばそこはポポロカ語でいう「バサーオ」=たどり着けないほど遠い(主に心の距離が)、とまでは言わないだろうな。簡単な世界地図を付してもらえると嬉しかった。
読了日:02月15日 著者:吉岡 乾
チェコの十二ヵ月―おとぎの国に暮らすチェコの十二ヵ月―おとぎの国に暮らす感想
キリスト教以前の土着の信仰がおおらかに息づきながら、つい最近までの社会主義は名残りもない。小さく偉大な祖国を愛する人々の国チェコの12ヶ月を、朗らかでマイペースな出久根さんが11年の歳月をかけてのんびりと見回す。山姥を彷彿とさせるような魔女の存在感、残念という名の国民車、名も明かさぬまま出会って別れた人とのコンサート。そして何より羨ましかったのは、観客を乗せて走り出す電車と車窓の市街劇。おとぎの国ではこれも日常なのかと、耳慣れない地名や人名もあいまって夢見心地の浮遊感を味わう。もちろん挿画も魅力的です。
読了日:02月15日 著者:出久根 育
RDG レッドデータガール 氷の靴 ガラスの靴RDG レッドデータガール 氷の靴 ガラスの靴感想
チーム姫神の姿をまた見られるとは思っていなかったので、嬉しかったし楽しかった!しかも番外編の短編だけではなく、ガッツリ本編の続きを中編で読めるなんて。物語の展開よりも糖分多めの読者サービスを予想していたものだから、ラストの真夏には私まで胸が凍る思いをしたけれど、シビアながらも端々でこそばゆい高校生たちのやりとりを、今回も堪能させて頂きました。ココアの件など細かい部分を忘れていることに気づいたので、また読み返すのも楽しそう。しかしこんなサプライズをもらったら、無粋を承知でさらに続編を期待したくなっちゃうよ。
読了日:02月22日 著者:荻原 規子
おたすけこびとおたすけこびと感想
【3歳4ヶ月】重機大好きなのにこれまで見向きもしなかった息子。バレンタインのガトーショコラを一緒に作った翌日から、急に本書を大好きに。おもちゃサイズの精密な重機に、こびとの何でも屋さんが乗って作るのは、(こびとたちにとっては)大きな大きなバースデーケーキ。ホイールローダーとオフロードダンプで粉類を運び、ミキサー車が生クリームを泡立て、ウイングトラックが苺を運ぶ。最後にヘリコプターが飾りのクッキーを乗せれば出来上がり!画面のすみずみにまで遊び心があふれ、小さなドラマをみつけていつまでも楽しめる素敵な絵本。
読了日:02月23日 著者:なかがわ ちひろ
きょうのごはんきょうのごはん感想
【3歳5ヶ月】この本仕掛け売りしたなあと、書店員時代を懐かしんで手に取る。焼き魚が大好きな息子は表紙を見るなり「おいしそう!」、私も秋刀魚は大好物。絵が命の絵本らしく絵一本で勝負してくる漢前な本書を見ていると、ページから伸びた見えない手が胃袋をがっしり掴んでくるのがわかる。決して写実的ではないのに、においや温かさまで感じ取れるこの絵力。遊び疲れて家路を急ぐ夕暮れ時、どこからか流れてくる煮炊きの気配に鼻を尖らせ、見知らぬ食卓に上るおかずを推理する。うちは今晩シチューがいいなあ、なんて思いも懐かしい。
読了日:02月24日 著者:加藤 休ミ
しんごうきピコリしんごうきピコリ感想
【3歳5ヶ月】「こんにちは ぼくはパトカーです。きょうはしんごうきのおはなしをします」から始まり、「しんごうきのいろをみて こうつうルールをまもりましょう」で終わる本書に、息子は声を上げておおはしゃぎ。読み終えたとたん「もういっかい!」、もちろん私もノリノリで応える。食いしん坊の彼はオレンジ信号がお気に入り、私はこのキャビンカンパニーらしい大胆な色彩のダンスに見惚れ、二人で何度でもページを繰る。カタツムリの親戚じみた車たちは、目玉のサイドミラーが懐かしいデザイン。街並みもどこかレトロモダンでぐっとくる。
読了日:02月24日 著者:ザキャビンカンパニー
エリコの丘から (岩波少年文庫)エリコの丘から (岩波少年文庫)感想
「タルーラ」なんて「パピヨン」よりずっと魔法のにおいがするのに、これは呪文ではなく女性の名前。彼女は煙草と犬と大道芸を愛した才気あふれる女優で、美しくはないが忘れられない顔立ちをしており、肉体が死んでからはラハブの宿に暮らしている。主役の少年少女よりも神秘の宝物レジーナの石を探す冒険よりも、ただこのタルーラの魅力に惹きつけられる。〈クローンたち〉の群れに馴染めないジーンマリーの閉塞感は私にも覚えがあるけれど、移民ゆえの疎外感を持つマルコムの孤独は見えにくい。魔法という見えない世界は彼にこそ必要だったはず。
読了日:02月25日 著者:E.L. カニグズバーグ
妹背山婦女庭訓 (橋本治・岡田嘉夫の歌舞伎絵巻 5)妹背山婦女庭訓 (橋本治・岡田嘉夫の歌舞伎絵巻 5)感想
古典イベで知ったシリーズ、蘇我入鹿が悪役と聞き興味を持った本書から。作中では、三作の手紙を手にして地蔵の前に立ち尽くす杉松の画が印象深い。谷底のような背景から「山の段」とつい重ねて見てしまうが、今生では結ばれなくとも死後には夫婦となれた久我之助と雛鳥に対し、幼いまま親の体面のため理不尽に殺された杉松の方に、どうしても思いは傾く。とはいえ吉野川を中央に据え両岸に引き裂かれた恋人たちの構図は、七夕伝説を彷彿とさせる美しさ。さらに画を通して見ると面白いのは苧環の魅せ方で、「道行恋苧環」の狂おしさは舞台で見たい。
読了日:02月25日 著者:近松 半二,橋本 治
国性爺合戦 (橋本治・岡田嘉夫の歌舞伎絵巻(4))国性爺合戦 (橋本治・岡田嘉夫の歌舞伎絵巻(4))感想
面白かったー!近松門左衛門すごい!和藤内の問答無用の豪傑ぶり、小睦の負けん気、渚の天晴。甘輝の血滲む決意と錦祥女の健気も忘れ難い。全編ドラマチックで息吐く間もない矢継ぎ早の展開ながら、読み手を混乱させない橋本さんの語りと、うねるように押し寄せる岡田さんの艷やかな色、線、華。日本と明を股にかけためくるめく玉座奪還の大活劇、それを混血の漁師がやってのけることの爽快感。序盤の花いくさも華麗でいいし、九仙山の場面は下界とのコントラストがピリリと小気味良く、緊張感にうっとりする。これは形を変えても大傑作とわかる!
読了日:02月25日 著者:橋本 治

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