4月に読んだ本

4月の読書メーター
読んだ本の数:8
読んだページ数:3097
ナイス数:439

ふくろう模様の皿 (児童図書館・文学の部屋)ふくろう模様の皿 (児童図書館・文学の部屋)感想
それぞれが懸命に自分自身を生きているのに、ふとこれは誰かのつけた道筋をなぞっているだけなのではと感じることがある。谷底に集まるのは水だけではない。流れ込んで堰き止められた気は満水を迎えるたびに溢れ出し、水底に隠されていた古い物語が顔を出す。屋敷に集う三人の若者と、かつて若者だった者たち。花から創られた乙女は恋を知って梟となり、男たちは岩をも貫く槍を持って殺し合う。グウィンとロジャが手を取り合ったラスト、舞い降りてくる花に曼珠沙華を重ね見た。それは瑞祥、彼女は花でいたいのだから。
読了日:04月01日 著者:アラン・ガーナー
冬の龍 (福音館創作童話シリーズ)冬の龍 (福音館創作童話シリーズ)感想
読み始めてすぐ、これは男の子版「十一月の扉」だと思った。親元を離れてひとり下宿屋〈九月館〉に暮らす、十二歳のシゲル。父親とのわだかまりがあり、一癖ある下宿人たちとの交流があり、大家のおばさんとの絆がある。そして何より、ケヤキの化身・小槻二郎と雷の玉を巡る探索劇が地味ながら楽しい。シゲルの置かれた状況はなかなか厳しく、片親で息子を育てる私はどうしてもそこにわが子を重ね、息苦しくなる処もあった。けれども全体に読み味は易しく、書き込みすぎない心理劇もバランスよく読了できた。なんとも樹らしい小槻二郎の存在感よ。
読了日:04月09日 著者:藤江 じゅん
銀のほのおの国 改訂版 (福音館創作童話シリーズ)銀のほのおの国 改訂版 (福音館創作童話シリーズ)感想
異世界へ迷い込んだ兄妹と物言う動物の冒険についナルニアを重ねたが、実際その訳出と同時期に発表されたのが本書なのだ。児童文学の古典に触れるつもりで項を進め、けれど青イヌのひめ登場の辺りから目を離せなくなった。幼いころ我が家には鶏小屋があり、常には卵が、そして正月にはその肉が食卓に並んだ。捌く役目は主婦のもの、私はそれを義務のように感じながら背後から見ていた。私達は他に犠牲がなければ生きていけない、それを原罪と名付け救済する絶対者アスランは登場せず、トナカイ王はやては言う。勝者はやがて敗者を肥やす糧となると。
読了日:04月14日 著者:神沢 利子,堀内 誠一
鍵の秘密 (福音館創作童話シリーズ)鍵の秘密 (福音館創作童話シリーズ)感想
ある日ノボルの元に届いた古い鍵。それはどんな扉も開けてしまうが、その先にもう一つの世界を繋げてしまうものだった。恐れに閉じ籠もり肥大してゆく闇の城に、光溢れる地獄が四角く口を開ける。揺れる天秤、秘密と勇気。蒸発した父を探すノボルと、父を陰謀から救いたい王女。「空をごらん」響き渡る合唱に消え入る呼びかけ「おとうさん!」助けてくれた親友は、幼い頃に父を亡くしている。上手い語り手の書く本は、読むというよりも聞く感覚になる。1ページ目から耳をすました作家さんは久しぶり。これだからこそ私は児童書が大好きなのだ。
読了日:04月17日 著者:古市卓也
かはたれ (福音館創作童話シリーズ)かはたれ (福音館創作童話シリーズ)感想
みなしご河童の八寸と、母を亡くしたばかりの少女、麻。朝はかはたれ、暗が明に転じゆくとき。耳に聞こえない音楽を探すあさ、目に見えない傷を月の光に晒すよる、あわいの生きもの河童猫。不具ゆえに取り残された子供は泣いただろうか、皆と共に行きたいと。落第盲導犬のチェスに、妻を看取り損ねた夫、取り残された者ばかりの家にハメルンの笛は聞こえない。けれど会えないからといって、その人はいないと言えるだろうか。聞こえる音楽は美しいが聞こえない音楽はさらに美しいと、教えてくれたその人が。夜が明けるように開かれてゆく心の物語。
読了日:04月20日 著者:朽木 祥
黒猫が海賊船に乗るまでの話黒猫が海賊船に乗るまでの話感想
客電落ちる、客席には本を抱えた私。開幕。明転、港。船長は酒場の片隅で怪しげな黒猫と出会う。暗転、家。意固地な老人がある日思い立って人形芝居を始める。幕間、人形たちによる人形たちのための劇中劇。芝居はやがて現実を越え、人形はいつしか操られることをやめて出掛けた。客電上がる、人形使いが人形に、人形が人形使いに問いかける。さて演じているのは誰で見守るのは誰なのか。導入はさすが、中盤やや冗長に、終盤語りすぎの気はありつつも、満足のうちに読了。やはり語りの巧さ、これに尽きる。読み終えてすぐまた冒頭に戻りたくなった。
読了日:04月26日 著者:古市 卓也
風と行く者 (偕成社ワンダーランド)風と行く者 (偕成社ワンダーランド)感想
若い頃の忘れていたい出来事は、当時の根強い羞恥や後悔が記憶に蓋をしているだけで、いざその蓋を外してみると、その頃一緒にいてくれた人の優しさや勇気に今さらのように気付くことになり、驚いたり嬉しくなったりする。今の自分があの頃よりいくらか成長できているとすれば、それは忘れていたあの人たちの存在があったからなのに。バルサの過去は壮絶だから、こういうところで親近感を持てると少し嬉しい。ジグロがいて、タンダがいて、旅と血があって現在のバルサがある。そのバルサがエオナやルミナに関わり、また新たな過去を作っていくのだ。
読了日:04月28日 著者:上橋菜穂子
物語と歩いてきた道 インタビュー・スピーチ&エッセイ集物語と歩いてきた道 インタビュー・スピーチ&エッセイ集感想
バルサとの再会ついでに借りた本。幼い頃は病弱で物語を友だちに育ったこと、臆病な自分の背中を蹴飛ばすように文化人類学を学び始めたことなど、この手の本をすでにいくつか読んでいる身には、内容に目新しさは感じなかった。面白かったのは、本屋大賞の副賞図書カード10万円で購入した本のリスト(共読は1冊、中沢新一「対称性人類学」のみ)と、上橋菜穂子書店の品揃えリスト(こちらは共読本たくさん!)。おかげで読みたい本が増えたし、長年の積読サトクリフへの手引きもしてもらった。そうか、これがタイミングなんだろうな。
読了日:04月30日 著者:上橋 菜穂子

読書メーター

コメント

人気の投稿