9月に読んだ本
9月の読書メーター
読んだ本の数:5
読んだページ数:1952
ナイス数:539
熱帯の感想
手品師が広げた手札のように重なり合いながら少しずつずれていく世界、角を揃え箱へ戻したとしてもそれは元いた場所と同じではない。自律した物語というよりは自制のきく賢い読み物のようで、入れ子状のあれこれも展開というよりは手法を感じる。ただ<創造することは支配すること>なら、この違和感も魔王の仕業と納得しようか。物語ることで一夜の生を繋ぐシャハラザードと、物語でしか餓えを満たせない王様。閨では次々と生まれて消える狂気、それは熱帯の生命活動のように目まぐるしい。否応なしに惹かれていく、これも千一夜物語に連なる一冊。
読了日:09月07日 著者:森見 登美彦
椿宿の辺りにの感想
ここにある痛みとどう向き合うか。鎮痛剤を飲んで当座の平穏を得る、手間隙をかけて原因を探る。氾濫を繰り返す川には?暗渠を作り閉じ込める、氾濫も川の一面として身の振り方を考える。痛みも氾濫も土地に残る昔の悲劇も、こちらの手に負えるものでないなら、謙虚に受け止めるしかないのだろう。それは一切身を引くということではなく、本来の姿を失わないよう細心の注意を払いながら、必要な手は入れ、その上で共生するということ。私が梨木さんを慕うのは、だからなのだ。文章ではないところで、いつも受け入れてくれている。
読了日:09月09日 著者:梨木 香歩
厨師、怪しい鍋と旅をするの感想
何とも言えずおいしい読み物。口に入れた途端にはっとする味ではなく、二口目でおやと思い、三口目でやはりと唸り、次々と箸を進めながらもその素材にはピンとこず、最後には空になった皿を眺めながら「何の料理かはわからなかったが、とにかくまた食べてみたい」、そういう一冊。息苦しい浮き世から少しだけ距離を取るように登場人物達は皆どこかずれていて、そこに生じた隙間には、魔性の鍋や廃屋の妖怪や饅頭好きな川の神が忍び込む。筆致はやや荒いながらも飄々と書き流す匙加減が絶妙で、この一篇で止めておこうと思いながらつい項を捲った。
読了日:09月14日 著者:勝山 海百合
火狩りの王〈一〉 春ノ火の感想
プロメテウス、神の火、と連想し、高村薫が浮かび、あの彗星の抱く火が原子力でないことを願った。人類最終戦争後の世界、なんて解説をもし先に見ていれば、手に取らなかっただろう。身近に天然の火があるだけで体内から発火して死ぬ、という設定も然り。ファンタジーに期待するのは物語の自律と体感、それを与えてくれる場面はどれも過酷で、喜ぶに喜べない。けれどこれだけ書いておきながらすぐにも二巻へ手を伸ばす私は、すでに引き込まれているんだろう、この手探りの物語に。見るべき地獄はすでに見た、あとはどう足掻きどう登っていくかだ。
読了日:09月20日 著者:日向 理恵子
火狩りの王〈二〉 影ノ火の感想
過酷な旅を終え、首都に足場を得て落ち着いた灯子たち。ほっと胸を撫で下ろしたのも束の間、千年彗星の帰還を予期した人と蜘蛛と神族、それぞれの思惑が動き始める。かなたを介した出会いあり、神族の少年の登場あり、文字通り根の国へ封じられた神族の過去あり。私のお気に入りは綺羅と照三、彼らのために奮闘する煌四と明楽。灯子は未だ読み手の私にも掴みきれぬ子。けれど無私の意思を貫く信念、それが無力な筈の灯子から引き出す勇気、微力が滲ませる温かさに息をつく。ひとり静かに我が道を見出だして進む、火穂の姿がただ嬉しい。
読了日:09月24日 著者:日向 理恵子
読書メーター
読んだ本の数:5
読んだページ数:1952
ナイス数:539
熱帯の感想
手品師が広げた手札のように重なり合いながら少しずつずれていく世界、角を揃え箱へ戻したとしてもそれは元いた場所と同じではない。自律した物語というよりは自制のきく賢い読み物のようで、入れ子状のあれこれも展開というよりは手法を感じる。ただ<創造することは支配すること>なら、この違和感も魔王の仕業と納得しようか。物語ることで一夜の生を繋ぐシャハラザードと、物語でしか餓えを満たせない王様。閨では次々と生まれて消える狂気、それは熱帯の生命活動のように目まぐるしい。否応なしに惹かれていく、これも千一夜物語に連なる一冊。
読了日:09月07日 著者:森見 登美彦
椿宿の辺りにの感想
ここにある痛みとどう向き合うか。鎮痛剤を飲んで当座の平穏を得る、手間隙をかけて原因を探る。氾濫を繰り返す川には?暗渠を作り閉じ込める、氾濫も川の一面として身の振り方を考える。痛みも氾濫も土地に残る昔の悲劇も、こちらの手に負えるものでないなら、謙虚に受け止めるしかないのだろう。それは一切身を引くということではなく、本来の姿を失わないよう細心の注意を払いながら、必要な手は入れ、その上で共生するということ。私が梨木さんを慕うのは、だからなのだ。文章ではないところで、いつも受け入れてくれている。
読了日:09月09日 著者:梨木 香歩
厨師、怪しい鍋と旅をするの感想
何とも言えずおいしい読み物。口に入れた途端にはっとする味ではなく、二口目でおやと思い、三口目でやはりと唸り、次々と箸を進めながらもその素材にはピンとこず、最後には空になった皿を眺めながら「何の料理かはわからなかったが、とにかくまた食べてみたい」、そういう一冊。息苦しい浮き世から少しだけ距離を取るように登場人物達は皆どこかずれていて、そこに生じた隙間には、魔性の鍋や廃屋の妖怪や饅頭好きな川の神が忍び込む。筆致はやや荒いながらも飄々と書き流す匙加減が絶妙で、この一篇で止めておこうと思いながらつい項を捲った。
読了日:09月14日 著者:勝山 海百合
火狩りの王〈一〉 春ノ火の感想
プロメテウス、神の火、と連想し、高村薫が浮かび、あの彗星の抱く火が原子力でないことを願った。人類最終戦争後の世界、なんて解説をもし先に見ていれば、手に取らなかっただろう。身近に天然の火があるだけで体内から発火して死ぬ、という設定も然り。ファンタジーに期待するのは物語の自律と体感、それを与えてくれる場面はどれも過酷で、喜ぶに喜べない。けれどこれだけ書いておきながらすぐにも二巻へ手を伸ばす私は、すでに引き込まれているんだろう、この手探りの物語に。見るべき地獄はすでに見た、あとはどう足掻きどう登っていくかだ。
読了日:09月20日 著者:日向 理恵子
火狩りの王〈二〉 影ノ火の感想
過酷な旅を終え、首都に足場を得て落ち着いた灯子たち。ほっと胸を撫で下ろしたのも束の間、千年彗星の帰還を予期した人と蜘蛛と神族、それぞれの思惑が動き始める。かなたを介した出会いあり、神族の少年の登場あり、文字通り根の国へ封じられた神族の過去あり。私のお気に入りは綺羅と照三、彼らのために奮闘する煌四と明楽。灯子は未だ読み手の私にも掴みきれぬ子。けれど無私の意思を貫く信念、それが無力な筈の灯子から引き出す勇気、微力が滲ませる温かさに息をつく。ひとり静かに我が道を見出だして進む、火穂の姿がただ嬉しい。
読了日:09月24日 著者:日向 理恵子
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