11月に読んだ本
11月の読書メーター
読んだ本の数:8
読んだページ数:1987
ナイス数:262
葬送習俗事典: 葬儀の民俗学手帳の感想
事典とはいえ項目別の体裁、前書きも附されて読み通しやすい。ここで言う葬送とは土葬、村の中で講の手を借りて行う。清と忌の火を峻別する心には、死を穢れとして避ける以上に、何かと手をかけて関わりを続けようという死者への親しみを感じる。来歴を忘れられた習俗も、その始めは身近な誰かへの追慕なのだろう。訃報の使者には二人であたる(一人で行くと死者がついてくる)、年内に不幸が二件あると次を恐れて人形の仮葬儀をする等既知のものもあるが、火葬の際に一緒に焼いた芋を食べる(すると風邪をひかない)等には驚いた。
読了日:11月30日 著者:柳田 国男
神話の心理学の感想
「神話と日本人の心」を軽くなぞるような内容で、コンパクトにまとまっていて読みやすいものの、4冊目としてはやや物足りなかった。とはいえブランク明けの復習には最適だし、河合隼雄入門書としてもお薦めできそう。前掲書が日本神話の中空均衡構造をメインに据えているのに対し、本書は東西の様々な神話を、意識の発生や父性原理と母性原理というシンプルな観点から読み解く。あらゆるものに象徴性を見出す心理学の視点も、逐一例を挙げながら平易な言葉で解説してくれる著者にかかれば難解な気がしない。神話、もっともっと読み込みたい!
読了日:11月25日 著者:河合 隼雄
禁忌習俗事典: タブーの民俗学手帳の感想
全集未収録シリーズ。「忌み」を行為・日時・方角や害などにまとめる。事典となっているが通読しやすい。穢れから身を守るため、または清なるものを前に自粛するために存在した「忌み」。非合理的で差別の温床ともなるため、または公表すべきでないという元々の性質もあってか、近代化と共に忘れ去られてしまったもの。けれどそこには単に先人達の知恵というには収まらず、大陸渡りの学問よりもなお古い、この土地に根を張ってきた祖先たちの清と穢の魂がある。だからこの理屈抜きの説得力、恐ろしく面白い。気になったのは山言葉、沖言葉、夜言葉。
読了日:11月24日 著者:柳田 国男
竜が最後に帰る場所 (講談社文庫)の感想
こんなに平易な、これといって特徴もない文章で、ここまで豊かな物語世界を描いてみせる作者の手腕に、今回もため息を吐きながら本を閉じた。冬の間だけ現れ、世界の周縁を旅する「夜行の冬」。雪の白、女の赤、錫の音に覚えるふしぎな郷愁と、最後すべてが腑に落ちたあと覚えるやるせなさ。けれどやはり「ゴロンド」が連れ出してくれる、天然世界の途方もない拡がりには敵わない。幾百という世代をかけて、顔も知らない子孫の誰かが辿り着く故郷。そこに舞い降りたとき、彼の血や細胞に潜んで共に旅をした、夥しい竜の歓喜に震える姿が見えるよう。
読了日:11月22日 著者:恒川 光太郎
すきまのおともだちたち (集英社文庫)の感想
私の係ではないな、と思っていた作家さんを、ふと、ラムネのようなものが欲しくなって手に取る。口に入れた時だけほんのり甘く、あとはきれいに溶け去って何も残らない。ああ、いいなぁ、これ。小さいけど愛らしい砂糖菓子。固有名詞のない街の、過去を持たない女の子。とある推理小説の「世界は彼が生まれるせいぜい二週間ほど前に出来たばかり」というような、幼い男の子の目に映るものの鮮烈さを言った冒頭が好きだったことを思い出す。懐かしい少女漫画のような挿絵のあたたかさも良い。メルヘンは、それを疑わない人の手からしか生まれない。
読了日:11月20日 著者:江國 香織
日本霊異記/今昔物語/宇治拾遺物語/発心集 (池澤夏樹=個人編集 日本文学全集08)の感想
前回未読だった宇治拾遺物語を読み、本作が初めての町田康であることに気付く。もともと気になっていた作家さんではあるけれど、文学全集にこの訳文を突っ込んでくるあたりがもうパンク侍すぎて笑ける。原文や他の訳と読み比べてみたい気はするけれど、とりあえず本作だけの印象を言うなら、それはもう愛すべきダメ僧たちの哀れで滑稽な逸話達に集約されてしまう。発心集も楽しかったけれど、訳文のパンチ力ではこちらに軍配が上がる。生活の中に息づいていた仏教の気配が、ふと羨ましくなるときがある。信仰が入り込む隙間のない現代の息苦しさよ。
読了日:11月17日 著者:
うみキリン (新しいえほん)の感想
「へんしんトンネル」を気に入った息子のために借り出してきたのだけど、一読して私が大ファンに。うみキリン、なんて素敵なの!身長1万メートルで、海底に立ったまま海面から顔を出している。海を漂うものは何でも食べてしまうから、うみキリンが通ったあとはとてもキレイ。声はとてつもなく大きくて、地球の裏側にいる仲間と話だってできちゃう。海の中にある体にはいろんな生き物がすみついていて、海面に出ている頭の上では渡り鳥たちが一休みしている。遠目には船に見えても、煙突の先が丸くなっていたら。。いいなあ、うみキリン。会いたい!
読了日:11月10日 著者:あきやま ただし
弥栄の烏 八咫烏シリーズ6の感想
正直、読むといつも文章や世界観や人物像に少なからず違和感を覚え、そのため正面切って好きな作品と言い切れない処があるのだけど、それでも続編を楽しみに待つのは、ひとえにこの、読み手の視点や立脚点を前提ごとひっくり返す、力技の大転換があるから。今回のマジックは残酷なものではあったけれど、公平な立場から見た異界としての山内の有り様は、騙され踊らされることに喜びを覚えるミステリ読みの醍醐味を思い出させてくれた。うーん、悔しいけど面白い!今回は雪哉贔屓の私には寂しい展開が多かったけれど、女性陣が素敵で嬉しかったかな。
読了日:11月09日 著者:阿部 智里
読書メーター
読んだ本の数:8
読んだページ数:1987
ナイス数:262
葬送習俗事典: 葬儀の民俗学手帳の感想
事典とはいえ項目別の体裁、前書きも附されて読み通しやすい。ここで言う葬送とは土葬、村の中で講の手を借りて行う。清と忌の火を峻別する心には、死を穢れとして避ける以上に、何かと手をかけて関わりを続けようという死者への親しみを感じる。来歴を忘れられた習俗も、その始めは身近な誰かへの追慕なのだろう。訃報の使者には二人であたる(一人で行くと死者がついてくる)、年内に不幸が二件あると次を恐れて人形の仮葬儀をする等既知のものもあるが、火葬の際に一緒に焼いた芋を食べる(すると風邪をひかない)等には驚いた。
読了日:11月30日 著者:柳田 国男
神話の心理学の感想
「神話と日本人の心」を軽くなぞるような内容で、コンパクトにまとまっていて読みやすいものの、4冊目としてはやや物足りなかった。とはいえブランク明けの復習には最適だし、河合隼雄入門書としてもお薦めできそう。前掲書が日本神話の中空均衡構造をメインに据えているのに対し、本書は東西の様々な神話を、意識の発生や父性原理と母性原理というシンプルな観点から読み解く。あらゆるものに象徴性を見出す心理学の視点も、逐一例を挙げながら平易な言葉で解説してくれる著者にかかれば難解な気がしない。神話、もっともっと読み込みたい!
読了日:11月25日 著者:河合 隼雄
禁忌習俗事典: タブーの民俗学手帳の感想
全集未収録シリーズ。「忌み」を行為・日時・方角や害などにまとめる。事典となっているが通読しやすい。穢れから身を守るため、または清なるものを前に自粛するために存在した「忌み」。非合理的で差別の温床ともなるため、または公表すべきでないという元々の性質もあってか、近代化と共に忘れ去られてしまったもの。けれどそこには単に先人達の知恵というには収まらず、大陸渡りの学問よりもなお古い、この土地に根を張ってきた祖先たちの清と穢の魂がある。だからこの理屈抜きの説得力、恐ろしく面白い。気になったのは山言葉、沖言葉、夜言葉。
読了日:11月24日 著者:柳田 国男
竜が最後に帰る場所 (講談社文庫)の感想
こんなに平易な、これといって特徴もない文章で、ここまで豊かな物語世界を描いてみせる作者の手腕に、今回もため息を吐きながら本を閉じた。冬の間だけ現れ、世界の周縁を旅する「夜行の冬」。雪の白、女の赤、錫の音に覚えるふしぎな郷愁と、最後すべてが腑に落ちたあと覚えるやるせなさ。けれどやはり「ゴロンド」が連れ出してくれる、天然世界の途方もない拡がりには敵わない。幾百という世代をかけて、顔も知らない子孫の誰かが辿り着く故郷。そこに舞い降りたとき、彼の血や細胞に潜んで共に旅をした、夥しい竜の歓喜に震える姿が見えるよう。
読了日:11月22日 著者:恒川 光太郎
すきまのおともだちたち (集英社文庫)の感想
私の係ではないな、と思っていた作家さんを、ふと、ラムネのようなものが欲しくなって手に取る。口に入れた時だけほんのり甘く、あとはきれいに溶け去って何も残らない。ああ、いいなぁ、これ。小さいけど愛らしい砂糖菓子。固有名詞のない街の、過去を持たない女の子。とある推理小説の「世界は彼が生まれるせいぜい二週間ほど前に出来たばかり」というような、幼い男の子の目に映るものの鮮烈さを言った冒頭が好きだったことを思い出す。懐かしい少女漫画のような挿絵のあたたかさも良い。メルヘンは、それを疑わない人の手からしか生まれない。
読了日:11月20日 著者:江國 香織
日本霊異記/今昔物語/宇治拾遺物語/発心集 (池澤夏樹=個人編集 日本文学全集08)の感想
前回未読だった宇治拾遺物語を読み、本作が初めての町田康であることに気付く。もともと気になっていた作家さんではあるけれど、文学全集にこの訳文を突っ込んでくるあたりがもうパンク侍すぎて笑ける。原文や他の訳と読み比べてみたい気はするけれど、とりあえず本作だけの印象を言うなら、それはもう愛すべきダメ僧たちの哀れで滑稽な逸話達に集約されてしまう。発心集も楽しかったけれど、訳文のパンチ力ではこちらに軍配が上がる。生活の中に息づいていた仏教の気配が、ふと羨ましくなるときがある。信仰が入り込む隙間のない現代の息苦しさよ。
読了日:11月17日 著者:
うみキリン (新しいえほん)の感想
「へんしんトンネル」を気に入った息子のために借り出してきたのだけど、一読して私が大ファンに。うみキリン、なんて素敵なの!身長1万メートルで、海底に立ったまま海面から顔を出している。海を漂うものは何でも食べてしまうから、うみキリンが通ったあとはとてもキレイ。声はとてつもなく大きくて、地球の裏側にいる仲間と話だってできちゃう。海の中にある体にはいろんな生き物がすみついていて、海面に出ている頭の上では渡り鳥たちが一休みしている。遠目には船に見えても、煙突の先が丸くなっていたら。。いいなあ、うみキリン。会いたい!
読了日:11月10日 著者:あきやま ただし
弥栄の烏 八咫烏シリーズ6の感想
正直、読むといつも文章や世界観や人物像に少なからず違和感を覚え、そのため正面切って好きな作品と言い切れない処があるのだけど、それでも続編を楽しみに待つのは、ひとえにこの、読み手の視点や立脚点を前提ごとひっくり返す、力技の大転換があるから。今回のマジックは残酷なものではあったけれど、公平な立場から見た異界としての山内の有り様は、騙され踊らされることに喜びを覚えるミステリ読みの醍醐味を思い出させてくれた。うーん、悔しいけど面白い!今回は雪哉贔屓の私には寂しい展開が多かったけれど、女性陣が素敵で嬉しかったかな。
読了日:11月09日 著者:阿部 智里
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