河合隼雄
神話と日本人の心
長年の積ん読を大後悔。古事記と日本書紀を比較しながら神話の読み解き方を解説し、一神教と多神教を例にあげて神話の構造に迫り、そこから日本神話の特徴と魅力を洗いだす。ひじょうに面白く、しかも文章がとてもやさしい。記紀にあまり親しんでこなかった人にも推薦したくなるくらい。無為の中心と対立する二者で成り立つトライアッドを持ち、同じパターンを繰り返しながら少しずつ変化する中空均衡構造は、読んでいて内田樹「日本辺境論」を思い出した(日本は変化し続けるがその変化のしかたには法則があり、日本の特徴もそこにある)。昔話と日本人の心
深層心理学の視点から昔話を読み直し、日本人の心の有り様を探る。竜殺し英雄譚に象徴としての男性像を見て心理分析する従来のやり方は、西洋の近代的自我には適しても日本人の心理に対しては向かない。完全性を志向する(=欠点を排除する)父権意識よりも、全体性を志向する(=矛盾を内包する)母権意識の強い日本人の心理は、むしろ象徴としての女性像でこそ捉えやすい。ということで本書では主に女性の登場人物に日本人の深層心理を重ねて分析している。印象的だったのは<無が生じる>という<あわれ>の捉え方。西洋の絶対神と日本の絶対無。
神話の心理学
「神話と日本人の心」を軽くなぞるような内容で、コンパクトにまとまっていて読みやすいものの、4冊目としてはやや物足りなかった。とはいえブランク明けの復習には最適だし、河合隼雄入門書としてもお薦めできそう。前掲書が日本神話の中空均衡構造をメインに据えているのに対し、本書は東西の様々な神話を、意識の発生や父性原理と母性原理というシンプルな観点から読み解く。あらゆるものに象徴性を見出す心理学の視点も、逐一例を挙げながら平易な言葉で解説してくれる著者にかかれば難解な気がしない。神話、もっともっと読み込みたい!
子どもの本を読む
深層心理学の視点から児童文学を読む。読むというよりも「潜る」といいたくなる深さに、すらすら進むわかりやすい文章。読み応えがあって読みやすく、厚いかなと思っても読み出したらあっという間。ネタバレだけは盛大に注意、だけど本当に面白い。既読は「思い出のマーニー」と「長くつしたのピッピ」だけだったので、読んでみたい本がまた増えた。いしいしんじさんの初期の長編を著者が解説したらどうなるのか、気になるようなやめてほしいような、なんて勝手な想像で一人迷う。著者のすでに鬼籍にあることが残念でなりません。
ファンタジーを読む
心理療法家である著者が選んだ珠玉のファンタジー13本を、深層心理学の視点から語り尽くす。といっても「昔話と日本人の心」のようなガチ解説ではなく、のびのびとしたエッセイのよう。ただし愛ゆえにか解説のためか、あらすじにかなりの紙幅を取っているのでネタバレ苦手な方は要注意。私はゲド戦記1・2のみ既読でした。著者によると、「人間存在を身体と心とに割りきって考えた場合、どうしてもそこに取り残されるもの」が「たましい」で、ファンタジーとは「たましいのあらわれ」なのだそう。
「心理的に言えば、無意識から涌き出てくる内容に対して、意識が避けることも圧倒されることもなく対峙し、そこから新しく生み出されてくるものがファンタジーである」。これに対して、頭で考え出したものは「つくり話」であり「空想」である。なんとなく、中沢新一「カイエ・ソバージュ」の「流動的知性=無意識」を思い出す。身体と心に取りこぼされ、意識と無意識のはざまにある、ごく個人的でかつ普遍的なところから生まれてくる(生むのではなく)もの、それがファンタジーなのかな。
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