古代史
古代日本人の生活の謎 (古代学ミニエンサイクロペディア)
武光誠 大和書房テーマごとの章分け、キーワード1つにつき見開き2ページというわかりやすい構成。飽きずに楽しく読めたけど、古代というわりに内容は平安後期〜鎌倉まで及んでいて、縄文〜奈良が贔屓な私としては少し食い足りなかったかな。面白かったのは奈良時代の駅、運用開始時はとっても画期的だったのに、すぐに悪用されたり目的を見失って形骸化したり…顕著(というか露骨)なのは平安貴族だけども。ただそういう歴史のしょうもなさに対しても、滲み出てくる著者の愛着や親愛の情が心地よい。古代は豊かで意外なほど機能的、でもやっぱ現代人の先祖だわ。
風土記説話の古代史
滝音能之○○国風土記と分けず、テーマごとに国を横断しながら「風土記というもの」について書かれていて、分量からみても入門書として適任の1冊。元は論文だったのか文章はちょっと堅めだけど、論調は懇切丁寧でむしろ理解しやすい。自説を披露した後には必ず「この限りではない」等の断わりが入るのも誠実で好感を持てる。ただ難点はルビが少ないことで、特に固有名詞には困らされた。多少なりとも予備知識がないと苦しいかも。風土記を編纂したのは中央から派遣された地方の役人であり、現地の人ではない、というのは少なからずショックでした。
日本のまつろわぬ神々
新人物往来社(ライトな記紀ファン視点での感想)面白かった!1章は基礎知識+αで既知のものも多かったけど、2・3章は民俗学や宗教学がほどよく入り混じってきて、これからどんな本に手を出すかという指針をたくさん頂きました。秀真伝、上記、風土記は押さえておきたいところ。興味深かったのは大本教や天理教の出自、近代に入ってからの新しい宗教。神々が「出づる」+国譲りによって「喪に服す」で「出雲」、なんてのは眉唾じゃないのーなんて思いつつ、しっかり伊豆への興味を植えつけられました。今まで古代=大和だったので、東北関係もっと知りたい!
風土記の考古学―古代人の自然観
辰巳和弘 白水社水・樹・洞・海・岩・山・獣・鳥に章分けし、風土記・記紀・万葉集・考古学資料等から古代の人々がどんな感覚を持っていたか解説している。古代の遺物に意味のない意匠はないという前提のもと語られるのは、意味以上に叙情が湧き上がる著者の類推。中でも磯間岩陰遺跡に埋葬された男児の遺骨がコアジサシの骨を抱いていたという逸話には、並々ならぬ著者の思い入れが伝わってきて胸を掴まれた。時代的にも私が最も興味を惹かれる用明・垂仁・景行あたりが頻出して嬉しかった。
記紀夜話
菅野雅雄 おうふうあとがきで著者も認めている通り、「夜話」の題に期待する砕けたお話は聞かれず、もうほとんど論文の体裁。でも、神武東征を壬申の乱の天武天皇に重ねて、その背景を推測する下りは非常に面白く読んだ。私見と断ってはいるけど説得力がある。天智天皇が劣り腹の大友皇子を擁立したのは、血筋よりも実質をとる律令制の精神に則ったからで、天武天皇はそれに逆行した神聖政治を目指したというのも、新しい見方で興味深い。父・天智天皇の律令制に携わり、夫・天武天皇の神聖政治にも携わったのち即位した女帝・持統天皇にどうしても惹かれます。
一冊でつかむ天皇と古代信仰 (平凡社新書 462)
武光誠狩猟採集時代と精霊信仰のセットはどこも同じで、稲作と文明のセットも然りで、それでどうして日本だけこんな、不思議なほど素朴なままの神道が残ってこられたんだろう。精神の豊かさと文明の進化が半比例しているように見えて悲しい。国譲りで、下照姫の兄が喪屋を切り伏せる下りは、解釈に目を開かれた。記紀で読んだ時はえらい難癖だと思ったけど、貴種流離譚として見ると日本武尊とも重なって物悲しくもロマンチック。「宇津保物語」と「梁塵秘抄」にはどんな描かれ方をしてるんだろう。天稚彦物語、興味津々です。
地図で読む日本古代戦史 (平凡社新書)
武光誠安心の武光先生、わかりやすい上に面白い。期待したほど地図は多くなかったけど、戦乱それぞれの起承転結と大きな流れや繋がりが一読瞭然でした。歴史の授業で習った人物名達がいきいきと文章の上に躍っていて、そのぶん含まれるだろう独断を差し引いても得るものは多い。実は没落豪族だった物部と先見の明ある蘇我、両一族を出し抜いて出世した中臣が藤原に。中大兄皇子(天智天皇)は頭の痛いお方。良くも悪くも文明萌芽その時から中華思想に染められている日本と、それゆえ優越に浸る朝鮮。百済の亡命貴族の振る舞いには彷彿とさせられるものが。
磐井の乱―古代を考える
小田富士雄 吉川弘文館軽い気持ちで借りてきたら論文だった上、磐井の乱に直接触れているのは実質第六章のみというもどかしさ。紀元527年に起こった(とされる)乱に関して、縄文時代からその歴史背景を解説していく懇切丁寧さに何度も心が折れかけた。ただ折り良く博物館で筑紫君磐井の遺物に触れる機会に恵まれたので、どうにか読了に漕ぎ着けました。けれど私のようなひよっこにはまだ早かったと認めざるをえないわ…。次はもう少し軽いところから攻めてみようと思います。
血脈の日本古代史 (ベスト新書)
足立倫行図書館ついで借り。期待せず流し読みするつもりが<筑紫の日向の高千穂の久士布流多気>が伊都国に~のあたりから熟読してた。高千穂が固有名詞でないことは知ってたけど、筑紫に日向という地名があり他の条件も一致するなら、天孫降臨の地はもう決まりだって思いたくなる。タイトルに「血脈の」と冠するだけあって全編ほぼ在野の歴史研究者、宝賀寿男氏の古代氏族系譜研究をベースに考察を進めている。ハッタリ上等の古代皇室の系譜も、同時代の有力氏族のそれと照らし合わせて検証すると案外合理的に納得できて面白い。巻末の系譜も素敵!!
姫神の来歴: 古代史を覆す国つ神の系図 (新潮文庫)
丹生都姫の章では多少の飛躍を感じたけれど、丹念に資料にあたり現地に足を運び、丁寧に書き上げられたよい本という印象。出してくる仮説はかなり大胆なのに、地道な文章のおかげでそんな気がしなくなる。著者の人柄が出てるのかな。肝心の内容は、確かめようのない仮説の真偽はさほど重要ではないとして、それぞれ別個の逸話と神名だと思っていたものがひとつずつ繋がっていくさまは、ドラマチックでとても面白かった。これを小説にしたら野田秀樹「パンドラの鐘」みたいな傑作が出来そう・・・などと思えるだけに、著者の急逝が悔やまれます。怨霊の古代史---蘇我・物部の抹殺
戸矢学 河出書房新社オカルト本じゃないよ。謀殺事件があった時、黒幕が亡者の祟りを恐れて祭り上げるのが御霊信仰である。つまり怨霊=被害者、祭祀者=黒幕。そして歴史は常に勝者が作る。日本書紀を編纂した欠けない望月・藤原一門が闇に葬ったもの、その動機と方法を解説する筆の明解さが心地よい。全国の神社を祭神・縁起・名前・建築様式などから分析する著者独自のやり方には非常に説得力がある。思えば記紀に対しても、はじめに結論(持論)ありきで恣意的に読むことをいつのまにか当然にしていた。信頼して素直に読む、著者のスタンスに好感を持った。
古代史の基礎知識 (角川選書)
吉村武彦そうそう、こういう本が読みたかった!読みやすい平易な文章で、重要トピックごとにまとめられていて、参考文献と索引がしっかりしている。手堅くわかりやすいけれど、地味で淡々としているから読み通すのはそれなりに根性がいる、つまり教科書みたいな本。なんだか懐かしい気がしたのは、だからなのね。範囲は縄文から平安中期までという私的ど真ん中、「人々の生活と信仰・文化」の章だけでも本体1700円(良心的!)におつりがきそう。惜しいのは律令制以前への言及の少なさだけど、参考資料がないから仕方ないか。
風土記謎解き散歩 (新人物文庫)
滝音能之全ての章が図版込み2〜4ページに纏められていて、読み味の軽いコラム集といった印象。「風土記の世界編」は記紀ファンにはおさらい程度の内容、「全国風土記の丘編」はいっそ表でよいのでは?という定形ぶり。けれど神々編、神社編は各章短いながらも発見があり面白かった。こんなにアメノヒボコ推してる本初めて読んだよ。記紀の内容や神名をある程度おさえていて、風土記との差異を楽しみたい私程度の入門者には、軽めの案内書として重宝します。さりげなく交通アクセスも逐一載せてくれているので、散策の手引きにも良さそう。
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