歌舞伎絵巻
橋本治・岡田嘉夫の歌舞伎絵巻(ポプラ社)
全5巻
菅原伝授手習鑑 (橋本治・岡田嘉夫の歌舞伎絵巻(3))の感想
浄瑠璃版を三浦しをん訳で読んだ時は混みいったお話のように思えたけれど、絵本の体裁に収めた本書はすっきりしていて読みやすい。梅松桜に燕が舞い乱れる画面は常と変わらぬ華やかさだが、その中にあって園生の前や覚寿のきりりとした装束が目に鮮やか。お話の方でも薙刀を構える八重の勇ましさ、小太郎を送り出す千代の痛ましさなど、女人の姿にばかり気を取られる読書だった。白地に菜の花が和やかな一連の画は、白太夫の元で過ごせば平凡な農夫となっていたかもしれない三つ子たちの、運命の皮肉を見せつけられるようで切なく心を打った。
読了日:03月09日 著者:橋本 治
義経千本桜 (橋本治・岡田嘉夫の歌舞伎絵巻(2))の感想
浄瑠璃版をいしいしんじ訳で読了済。シリーズ順不同4冊目、今回初めて橋本さんの語りに違和感を持つ。フーゾクって、確かにそうだけど工夫が欲しい。設定と構成はよく出来た少年漫画のよう、話の筋は定説を無視した荒唐無稽ぶりだけど、たまたま御霊信仰の本を読んでいたせいか、慰霊と鎮魂という言葉が胸に浮かぶ。不遇の義経は勿論、平家生き残りの三人についても。江戸の頃には源平の世は遠い昔で、観客は彼らに哀れみと滅びの美学を見たのだろうか。画が映えるのはやはり静御前と源九郎狐で、乱立する伏見稲荷の鳥居も心憎い。
読了日:03月10日 著者:橋本 治
仮名手本忠臣蔵 (橋本治・岡田嘉夫の歌舞伎絵巻 (1))の感想
浄瑠璃版を松井今朝子訳で読了済。忠臣蔵と聞くと男世界の死の美学を思い浮かべるのに、読んでみるといやに艶っぽい。という印象だったこのお話を、絵本でどう料理してみせてくれるのか楽しみにしていた。読んでみておやと思ったのは躱しに躱したそこではなく、橋本さんの端的な補足のおかげで、各人の心情がとても理解しやすくなっていたこと。画は銀杏と蝶の重なるシルエットが印象的、だんだら染めの地獄蝶も恐ろしくて良い。その他には枯れた風合いの本蔵にときめいたり、手真似で銭やらgoodやら合図を送る師直に吹いたりと楽しかった。
読了日:03月11日 著者:竹田 出雲,並木 千柳,橋本 治,三好 松洛
妹背山婦女庭訓 (橋本治・岡田嘉夫の歌舞伎絵巻 5)の感想
古典イベで知ったシリーズ、蘇我入鹿が悪役と聞き興味を持った本書から。作中では、三作の手紙を手にして地蔵の前に立ち尽くす杉松の画が印象深い。谷底のような背景から「山の段」とつい重ねて見てしまうが、今生では結ばれなくとも死後には夫婦となれた久我之助と雛鳥に対し、幼いまま親の体面のため理不尽に殺された杉松の方に、どうしても思いは傾く。とはいえ吉野川を中央に据え両岸に引き裂かれた恋人たちの構図は、七夕伝説を彷彿とさせる美しさ。さらに画を通して見ると面白いのは苧環の魅せ方で、「道行恋苧環」の狂おしさは舞台で見たい。
読了日:02月25日 著者:近松 半二,橋本 治
国性爺合戦 (橋本治・岡田嘉夫の歌舞伎絵巻(4))の感想
面白かったー!近松門左衛門すごい!和藤内の問答無用の豪傑ぶり、小睦の負けん気、渚の天晴。甘輝の血滲む決意と錦祥女の健気も忘れ難い。全編ドラマチックで息吐く間もない矢継ぎ早の展開ながら、読み手を混乱させない橋本さんの語りと、うねるように押し寄せる岡田さんの艷やかな色、線、華。日本と明を股にかけためくるめく玉座奪還の大活劇、それを混血の漁師がやってのけることの爽快感。序盤の花いくさも華麗でいいし、九仙山の場面は下界とのコントラストがピリリと小気味良く、緊張感にうっとりする。これは形を変えても大傑作とわかる!
読了日:02月25日 著者:橋本 治
読書メーター
コメント
コメントを投稿