5月に読んだ本

5月の読書メーター
読んだ本の数:17
読んだページ数:3687
ナイス数:641

石の神 (福音館創作童話シリーズ)石の神 (福音館創作童話シリーズ)感想
それぞれに豊かな才能を持つ二人の少年石工、対照的な彼らを通して描かれる厳しくも温かな職人の世界。神業と言葉にはするが、隠れたがりの石神は昏い場所が好きなのだろう。捨吉の心に宿っていたそれは、寛次郎によって根の国から引き上げられた。やがて苦しくも楽しいモラトリアムは終わる。けれどどんな世を渡っていても、見えない手は互いの鑿を支えている。読んでいて何度もはっとした。ひとつの道を究めることの厳しさ尊さ美しさを、平易な言葉だけで見事に描き出している。些細なやりとりを積み重ねて関係性を表す、群像劇としても見事。
「そこには神も仏もなかった。なにを祀ろうとも関係ない。石工の彫るのは神でも仏でもない、こうありたい、こうなるといいという、ただその、人の心でしかないのだ。」歴史も知らない異国の礼拝堂で、それでも何かを感じて押し黙る。わからないなりに神々しい、そうではない。訴えかけてくるのは神でも像でもなく、そこに見いだせる信仰の姿そのもの。博物館で見た仏像と、添えられたキャプションに覚えた違和感。

読了日:05月01日 著者:田中彩子
天狗ノオト天狗ノオト感想
たとえば「遠野物語」を読むとその詳細な地所の記録に目を留め、そこを訪れれば今でも河童や山人に逢えるのではないかと夢想する。山は開墾され里山は姿を消し、市町村合併で地名まで変わっていても、土や木や空気には何某かの名残があるのではないかと。本書を読み終えたとき、確かめるまでもなく諦めていたそんな幼い夢を思い出した。うちとける暇さえなく別れた祖父と、再会を願って果たせなかった古い友人、二つを繋げた1冊のノート。少年たちの見上げた空には天狗が舞い、肩には見えない手が置かれる。包み込まれるようなラストに目を閉じた。
読了日:05月03日 著者:田中 彩子

ヒルコ---棄てられた謎の神ヒルコ---棄てられた謎の神感想
アマテラス=ヒルメ、ヒルメとヒルコは双子では、という説には頷いてしまう。ツクヨミやスサノオと併せて四神に対応させるのも納得。けれども徐福伝説は、たとえ信頼できる記録があるにしろ内容があまりに突飛なので、ここでヒルコに結び付けるのはいささか強引なのではと思う。とはいえ一度分かれた系譜が神武で再び一つになる=皇統というのはドラマチックで楽しい。ただあまりの整合ぶりに却って慎重になる。人が死して神上がる神道の思想は馴染み深いけれど、記録の不確かな古代にまで遡り神名の一々に実在の人物を見ようとすると、やっぱりね。
読了日:05月08日 著者:戸矢 学

四谷怪談 (日本の物語絵本)四谷怪談 (日本の物語絵本)感想
岡田さんの画めあて。蝙蝠や櫛がつねに不穏な気配を漂わせているものの、お岩の面相の変化や血生臭い場面などでの直接的な表現はなく、やや物足りない。話の筋は大胆に端折っており、お袖などは最後にちらりと出るだけで、いっそ出さなくてもよいように思えた。文章はひらがなを多用しているものの、言葉そのものが時代がかっているので、子どもに理解しやすいとは思えない。絵本に収めるために文章量を減らさなくてはならないとはいえ、人物描写は特徴をわかりやすく加筆するくらいでないと、読み手は混乱してしまうように思う。辛口失礼しました。
読了日:05月08日 著者:さねとう あきら

なずず このっぺ?なずず このっぺ?感想
【3歳6ヶ月】息子本、久々のヒット!鼻にかかったくぐもり声でタイトルを読むと、もうそれだけでくつくつ笑う。ひと抱えもある大きな本には贅沢な余白。渋めの色味で描かれたのは、どことなく奇妙で愛嬌溢れる身近な蟲たち。なずずこのっぺ?ーわっぱどがららん。初耳のようで耳馴染みのよい、どこかの方言にでもありそうな蟲語の響きに、想像力をくすぐられる。この楽しさは声に出してこそのもの、黙読で魅力は伝わらない。知っている言葉は何一つないけれど、ダイナミックな筋と細部のドラマは何度でも味わいたくなります。じゃじゃこん!
読了日:05月09日 著者:カーソン エリス

二ギハヤヒ---『先代旧事本紀』から探る物部氏の祖神二ギハヤヒ---『先代旧事本紀』から探る物部氏の祖神感想
神道は本地垂迹の歴史が長く、仏教と習合される前の姿は再現不能だと、当然のように諦めていた。大和ことばの音に還元された神名から、または神社と祭神の関係から、為政者に都合よく改変される前の本来の信仰の在り方と、お馴染みの神々がかつて人間だった頃の歴史が丁寧に解きほぐされていく。その過程に今回もわくわくした。ニギハヤヒは東征の流れの中でも浮いているけれど、ヒルコほどのインパクトはなく見逃しがちな存在なので、目のつけ処が嬉しい。つい先を急いでしまうけれど、次回はメモを取りながら再読してみようと思う。
読了日:05月14日 著者:戸矢 学

新訳 説経節新訳 説経節感想
楽しかったー!伊藤さんの説経節、まだまだ読みたい。現代語訳制覇をお待ちしています。収録三作では小栗判官はタイトルだけ、しんとく丸は折口版と寺山版を既読(別物!)、山椒太夫は筋を知っている程度。どれも勧善懲悪の大衆向けで、お約束満載なのにふしぎと飽きない。演者の語りを人垣の後ろから覗き込むような臨場感。小栗や安寿の不運を嘆き、照手や乙姫の逞しさに舌を巻く。道行の地名羅列の名調子、決まり文句の心地よさ。ああこれを読むのではなく聞けたなら、無理ならせめて原文には当たってみよう。お次は「かるかや」、楽しみです。
読了日:05月16日 著者:伊藤 比呂美

かるいお姫さま (岩波少年文庫 (133))かるいお姫さま (岩波少年文庫 (133))感想
魔女の呪いにより重さを奪われたお姫さま。風が吹けば体は飛ばされ、心も軽く涙を知らない。彼女が愛したのはただ一つ、体を繋ぎ止めてくれる湖で泳ぐこと。奔放で虚飾のない彼女に惹かれた王子さま。靴磨きに身をやつし、その靴にキスをする。報われない恋に命を捧げ、その身をもって湖の穴を塞いだ彼が引き換えに求めたのは、彼女の手ずからの食事と眼差しだけ。動けない体に湖水は迫り、軽薄な姫はあくびする。メルヘンの世界にコケティッシュなお姫さま、王子さまもステレオタイプなのに、どうしてこんなにエロティックなのか。魅了されました。
同時収録「昼の少年と夜の少女」も良かった。魔女の城に囚われた二人の赤ん坊は、昼しか知らない少年と夜しか知らない少女に育つ。二人の出会いや魔女との対決よりも、初めて出会った昼や夜の世界への新鮮な驚きや底知れない恐怖が、みずみずしく語られていて心を打った。神話のような寓話のような、魅力的な物語でした。マクドナルド、もっと読みたい。
読了日:05月17日 著者:ジョージ・マクドナルド

しゅるしゅるぱん (福音館創作童話シリーズ)しゅるしゅるぱん (福音館創作童話シリーズ)感想
叶えられなかった夢ややり場のない哀しみは、どこへ行けばいいのだろう。持ち主すら忘れはてた思念は。輝かしく未来を照らした日々もあったはずのそれらが、あるとき姿を持って現れる。「しゅるしゅるぱん」は合言葉。人恋しさに降りてきた山神さまの悪戯に、村人たちが言う「気付いてますよ」。見えなくても、話せなくても、そこにいるのでしょう。それは優しくてとても残酷な名前になる。「かあさんがそう呼ぶから」。ごめんね、辛くて忘れるしかなかったことも、全て含めて私だったね。しゅるしゅるぱん、見えなくてもそこにいる。
読了日:05月18日 著者:おおぎやなぎ ちか

夏の朝 (福音館創作童話シリーズ)夏の朝 (福音館創作童話シリーズ)感想
亡き祖父の遺品整理が進むとき、家も長い寿命を終えようとしていた。庭の蓮池がつないだ過去と今、それは草むらに佇むお地蔵さまが最後に見せた奇跡かもしれない。莉子は普通の子どもだけれど、少年時代の祖父や小夜子さん、何より今は亡き母の、祈り願い望みを宿した身でもある。けれど本来だれを助け救われたかによらず、子どもとは皆そのような存在なのだろう。青空にすっくと立ち大輪の花を咲かせる蓮のように、健やかであれしなやかであれ。ただそこに在るだけでいいのだ。最後の数ページ、それまで堪えていたものが溢れ出して止まらなかった。
梨木香歩「西の魔女が死んだ」、アトリー「時の旅人」、ピアス「トムは真夜中の庭で」、ロビンソン「思い出のマーニー」、あらゆる名作児童文学を思い出す。胸締めつけられるような懐かしく慕わしい想い、嬉しくも切ない出会いと別れ。寂しさも受け入れて前を向く、それが若さであり強さであり生きていくということ。
読了日:05月21日 著者:本田 昌子

少年マガジンエッジ 2018年 06 月号 [雑誌]少年マガジンエッジ 2018年 06 月号 [雑誌]感想
シャーマンキング新章連載開始の初回のみ、僅かなりとも売上部数に貢献して版元への意思表示とするため、あとはご祝儀のつもりで、と自分に言い訳しながら購入。あとはコミックス待つんだからね!と思っていたら、来月から番外編も連載開始なんですって。原作のみ武井で作画は別の方とのこと、どう転ぶものか当面は傍観の構え。肝心の本編はまさかの双子から始まり感無量、展開は〈あきらメロン〉のフラワーズを踏襲する形でほうっと一息。前版元で翻弄されながらここまでついてきたファンの一人としては、今版元が安息の地となることを祈るのみ。
読了日:05月22日 著者:

終わらない夜終わらない夜感想
imagine a night を「終わらない夜」と訳したタイトルが好き。不穏な物語を隠した画にごく短い詩を添えた絵本で、お話らしいお話はない。けれどその詩さえ不要に思えるほど、饒舌な画ばかり。エッシャーの遊び心やマグリットの唐突さを思わせる、説得力のある違和感。描写はやや拙く人物たちにはぎこちなさが漂うものの、それも味だと納得してしまうバランスの良さ。趣味で言えば実はあまり好きでないタイプの作風なのだけど、このくらいストレートで強引なほうが子ども受けはしそう。3歳の息子には少し早かったよう、出直します。
読了日:05月24日 著者:セーラ・L. トムソン

能・狂言/説経節/曾根崎心中/女殺油地獄/菅原伝授手習鑑/義経千本桜/仮名手本忠臣蔵 (池澤夏樹=個人編集 日本文学全集10)能・狂言/説経節/曾根崎心中/女殺油地獄/菅原伝授手習鑑/義経千本桜/仮名手本忠臣蔵 (池澤夏樹=個人編集 日本文学全集10)感想
前回未読だった、能・狂言・説経節を読了。能・狂言は町田康ばりのカジュアル現代語訳で、敬しつつも遠ざけていた過去を忘れてぐっと仲良くなれた気分。「卒塔婆小町」は三島由紀夫版を美輪明宏演出で観たけれど印象がだいぶ違うので、戯曲として読み比べてみると面白そう。説経節「苅萱」は道心の身勝手さが鼻につくけれど、ブッダが我が子を悟りのための障壁(ラーフラ)と見たことを思うと、何とも苦い思いがする。すべての執着を捨てなければ悟りを得られないとしても、そのための犠牲はどう納得すればよいのか。とはいえこの女達は弱すぎる。
読了日:05月24日 著者:

黄金(キン)の鍵黄金(キン)の鍵感想
妖精の国との国境に住む男の子はある日、虹の橋のたもとで黄金の鍵をみつける。冷たい家から逃げ出してきた女の子は、不思議なおばあさまの元で男の子と出会う。何もかもが見える通りではない妖精の国、年齢や時間まで自在に伸び縮みするその国を、二人は黄金の鍵に合う鍵穴を探して旅していく。何とも寓意的で示唆に富み、それでいて特徴や感想をまとめにくい不思議な物語。読んでいて、ああ今なにかのヒントをもらったのだと気付くのに、しばらくすると他の何かに上書きされている。河合隼雄さんあたりに解説してほしい。
あえて言葉にするなら、ものごとは目に見えるままではない、とらわれない心で本当の姿を見つめることの大切さ、を言っているのかとも思う。それから人の手の及ばない高みに憧れる、信仰心のようなものの存在と、その高みに近付こうとする努力の困難と孤独。それらを分かち合える存在を見出すことの素晴しさ、など。
読了日:05月25日 著者:ジョージ=マクドナルド

アサギをよぶ声アサギをよぶ声感想
ものごとをありのままに見て、その意味するところを考える。ごくシンプルなこのモノノミカタが、実際にはどれほど難しいことか。こういう考え方の基本を児童書でわかりやすく教えてくれる本書は、とても貴重だと思う。終盤近くでの母親への対応を見ると、アサギはすっかりこの技を自分のものにしている。辛い日々にも腐らず、寡黙に努力を重ね、心に決めた目標をひたむきに追い続ける。もし他に選択肢があればこうはいかない、哀しい窮鼠だったのかもしれない。母親とは違う生き方を選んだアサギが、これからどんな成長を見せてくれるのか。楽しみ!
読了日:05月26日 著者:森川 成美

アサギをよぶ声 新たな旅立ちアサギをよぶ声 新たな旅立ち感想
「何もないところから始めることのできる、自分の力を信じる」もうそれさえあれば、どこでだって生きていけるような本質的な強さ。そうだ、自信って「自分を信じる」って書くのだった。すぐに揺らぐ、他者からの比較や評価とはまったく違う。前巻で習得したモノノミカタは、今巻でもアサギに冷静な視点を与えてくれる。けれどそれは良いことばかりではなく、時には女屋の仲間との間に誤解を生んだり、仲良くなれそうだったイブキへの対応がクールになりすぎたりする原因にもなる。イブキは贔屓にしたくなる素敵な子なので、良い目を見せてほしいよ!
読了日:05月29日 著者:森川 成美

アサギをよぶ声 そして時は来たアサギをよぶ声 そして時は来た感想
次から次へと押し寄せてくる難題、無理だ出来ないと震えながら、それでも立ち上がるアサギ。せめて肩を並べる仲間をと願うのに、信じた人々はいつもアサギを独り遺して去る。けれど手を差し伸べる人もまた、思いもかけないところから現れる。「望みを勘定に入れるな」モノノミカタがもたらすシビアな認識力は、アサギの判断に潜む一筋の光を容赦なく切り捨てる。それは正しい導きとなるが、ひとりぼっちの少女にとりどれほど残酷なことか。掴み取った勝利は甘い果実などではなく、その小さな手に託されたのは、血と泥にまみれた願いの種が一掴み。
縄文と弥生の転換点は古代史から見てもドラマチックで、ファンタジーの題材としても大好きなところ。孤立奮闘するアサギをはじめは「銀の海〜」の真秀に重ね見たりしたけれど、読み終えた今ではアサギはアサギです。12歳という年齢もあってか、目前の小さな悲劇ささいな矛盾のいちいちに目を留め、針を飲み下すようにしてそれらを受け入れ乗り越えていく様子があまりに健気で痛ましく、なんだかぎゅっと抱きしめて甘いケーキでも食べさせてあげたくなった。平明な文章で深みを見せる、作者様の筆力が光ります。
読了日:05月30日 著者:森川 成美

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