6月に読んだ本
6月の読書メーター
読んだ本の数:9
読んだページ数:1481
ナイス数:450
どこでもない場所 (海外秀作絵本)の感想
「終わらない夜」に続いて手に取った本書では、ドールハウスの画が好きでした。巨大な燭台が奥の階段を上ろうとしているのに気付き、にやりとしてしまう。説明的すぎて、描かれたもの以上の拡がりを感じない作品が多い中、このドールハウスはこちらに迫ってくるような臨場感がある。人形か人間か判然としない人物描写の曖昧さも、狙ってのことかはともかく功を奏し、よい意味で浮いている。小道具使いも面白い。貶すつもりはないけれど褒めるばかりでは終えられない、この座りの悪さ。それでもやはり、もう一作にもきっと手を伸ばすんだろうなあ。
読了日:06月03日 著者:セーラ・L. トムソン
累(13) (イブニングKC)の感想
累(かさね)や透世(すけよ)、野菊などの名前のほか、美醜をとりまく女たちの執念に、モチーフとなる江戸期の怪談「累ヶ淵」の影が窺える。美しい母には似ても似つかぬ醜貌に生まれついた累、けれど芝居の才だけはそのまま受け継いでいた。ある日導かれるようにして亡き母の鏡台でみつけたもの、それはくちづけた相手と貌を入れ換えることのできる魔性の口紅。醜貌ゆえの根深い自己否定と変身願望は、口紅を足掛かりに舞台の上で昇華され、累は母をも越える大女優への階段を駆け上がる。貌を奪われた誰かを犠牲にして。次巻で完結との事、楽しみ!
読了日:06月07日 著者:松浦 だるま
あいうえおうさま (理論社版新しい絵本)の感想
【3歳8ヶ月】幼稚園に入ってから少しずつ文字に興味を持ち始め、自分の名前を読めるようになってきたので、頃合いかと借り出してきた本書。私が幼い頃お気に入りだった、安野光雅「あいうえおの本」(こちらは購入)への反応と比べるまでもなく、抜群の食いつき。人差し指で文字をなぞり、一文ずつ復唱して飽きない。「いちごに みるくを いっぱい いれて いますぐ たべると いいだす おうさま」この語感の良さと単純ながら味のある絵が、楽しくて繰り返したくなるのかな。図書館に返却しだい同じ本を購入予定。おすすめです。
読了日:06月11日 著者:寺村 輝夫
お姫さまとゴブリンの物語 (岩波少年文庫 (108))の感想
幼いながらも賢明で、勇気と優しさと寛容さを併せ持つアイリーンお姫さまがとってもチャーミング。少年鉱夫カーディやその両親も、これはよき生活者よき労働者としての理想だろうなあ。地に足のついた温かな暮らしぶりが好ましい。このメルヘンチックな世界観にマクドナルドらしい色を添えるのは、何といっても〈大きな大きなおばあさま〉。年を重ねるほどに美しく誇りかに、けれどアイリーンには毅然としつつもほっこり甘い。神秘的、なんて陳腐な表現では足りない魅力。ゴブリンたちの末路はさすがに哀れだったけれど、楽しく読了しました。
読了日:06月12日 著者:ジョージ・マクドナルド
よるのようちえん (日本傑作絵本シリーズ)の感想
【3歳8ヶ月】幼稚園に慣れてきた息子と一緒に楽しむ。子供達や先生方がおうちへ帰った数時間後。無人となった夜の幼稚園では、昼間の熱気やざわめきの名残りがぼんやりと形をとり、こっそりと顔を出しては名乗っていく。そっとさんはきょろきょろりん、さっとさんはさっさかせ。砂場へ置き忘れたスコップに、心を残してお家へ帰った誰かさんの見た夢かもしれない。ぬっとさんはふんわほわ、おっとさんはすってんとん。トイミュージックが似合いそうな、どこか間の抜けたもう一人のお友達たち。朝になったらまた夕べ、「さよよんならららーん」。
読了日:06月20日 著者:谷川 俊太郎
琳派をめぐる三つの旅―宗達・光琳・抱一 (おはなし名画シリーズ)の感想
代表作に絞った図版は少ないが大きく、解説は簡潔かつ大きな文字で、小学生にも読み通しやすそう。「旅」というタイトルに期待する奥深さはないけれど、琳派と一括りで呼ばれることも多い三絵師の、共通点と個性を並べて味わうにはこのシンプルさが功を奏する。宗達の勢いと力強さ、光琳の絢爛と先鋭、抱一の渋味と端正に、それぞれこの絵師こそが最高だと唸らせられる。難を言えば、光悦をここに加えてほしかった。さらには相伝ではなく私淑と傾倒により流派と見做されたことの、特異な魅力をもっと推してほしかった。うーん、食い足りない!
読了日:06月21日 著者:
日々、蚤の市 -古民藝もりたが選んだ、ちょっと古くて面白いもの。の感想
装丁や文章量は雑誌かカタログの体、読むというよりは写真を眺めるための本。角がとれ木目が黒く浮きあがった鍋蓋、黒く堅く冷たい鉄が妙にぬくぬくと感じられる自在鉤、大福帳の反故を貼り継いで作られた重い暖簾。骨董や古美術と呼ぶには実用的で、美しいと言うよりは親しみ深く、少しの愉快と大きな郷愁を掻き立てるモノたち。肩肘張らない気安さは森田さんのコメントにも通じており、用途の不明なものには想像を膨らませ、こんな人がこんな使い方をしていたのではと楽しげに語ってくれる。カメラの向こうで付喪神も笑っていそうです。
読了日:06月23日 著者:森田 直
カーディとお姫さまの物語 (岩波少年文庫 (109))の感想
地の文の丁寧語や、軽やかにご都合主義で済ませる細部はお伽噺のよう。けれど肉屋の犬達に対する仕打ちの残酷さ、召使い達を追い立てる執拗さには冷水を浴びせられたよう。前作での白眉たる老いた姫の神秘は中盤ではすっかり鳴りを潜め、実際的な少年カーディのシンプルな冒険譚となるも、終盤では華麗な転覆に目を覚まされる。時折覗く説教臭さは、病んだ王が幼児とのふれあいから回復に向かうさまと同じに、読み手の子ども達への作者の思い入れか。哲学がかった物言いや詩的な表現も同じく。お伽噺への回帰を一歩外したラストも印象的。
読了日:06月24日 著者:ジョージ・マクドナルド
もののみごと 江戸の粋を継ぐ職人たちの、確かな手わざと名デザイン。の感想
写真は品物、手元、道具、職人で計3項。文章は経歴やインタビューを上下段組で計3項。33人の職人をそれぞれこの枠に収めて紹介するので、内容は広く浅い。けれどもそこに内包されるものの深さ重さを思わずに読める人はいないだろう。巻末には注釈の他に、品物を買い求める際に必要な情報が付せられているが、甲冑や鼈甲のような高価な品を除いては、どれも手が出ぬほどの額ではない。「手をかけすぎると値が上がる」と、買う人のために腕を磨く職人の意地がそこに見える。しかもある人は「技は借り物」と言い、独占することを良しとしない。
読了日:06月27日 著者:田中 敦子
読書メーター
読んだ本の数:9
読んだページ数:1481
ナイス数:450
どこでもない場所 (海外秀作絵本)の感想
「終わらない夜」に続いて手に取った本書では、ドールハウスの画が好きでした。巨大な燭台が奥の階段を上ろうとしているのに気付き、にやりとしてしまう。説明的すぎて、描かれたもの以上の拡がりを感じない作品が多い中、このドールハウスはこちらに迫ってくるような臨場感がある。人形か人間か判然としない人物描写の曖昧さも、狙ってのことかはともかく功を奏し、よい意味で浮いている。小道具使いも面白い。貶すつもりはないけれど褒めるばかりでは終えられない、この座りの悪さ。それでもやはり、もう一作にもきっと手を伸ばすんだろうなあ。
読了日:06月03日 著者:セーラ・L. トムソン
累(13) (イブニングKC)の感想
累(かさね)や透世(すけよ)、野菊などの名前のほか、美醜をとりまく女たちの執念に、モチーフとなる江戸期の怪談「累ヶ淵」の影が窺える。美しい母には似ても似つかぬ醜貌に生まれついた累、けれど芝居の才だけはそのまま受け継いでいた。ある日導かれるようにして亡き母の鏡台でみつけたもの、それはくちづけた相手と貌を入れ換えることのできる魔性の口紅。醜貌ゆえの根深い自己否定と変身願望は、口紅を足掛かりに舞台の上で昇華され、累は母をも越える大女優への階段を駆け上がる。貌を奪われた誰かを犠牲にして。次巻で完結との事、楽しみ!
読了日:06月07日 著者:松浦 だるま
あいうえおうさま (理論社版新しい絵本)の感想
【3歳8ヶ月】幼稚園に入ってから少しずつ文字に興味を持ち始め、自分の名前を読めるようになってきたので、頃合いかと借り出してきた本書。私が幼い頃お気に入りだった、安野光雅「あいうえおの本」(こちらは購入)への反応と比べるまでもなく、抜群の食いつき。人差し指で文字をなぞり、一文ずつ復唱して飽きない。「いちごに みるくを いっぱい いれて いますぐ たべると いいだす おうさま」この語感の良さと単純ながら味のある絵が、楽しくて繰り返したくなるのかな。図書館に返却しだい同じ本を購入予定。おすすめです。
読了日:06月11日 著者:寺村 輝夫
お姫さまとゴブリンの物語 (岩波少年文庫 (108))の感想
幼いながらも賢明で、勇気と優しさと寛容さを併せ持つアイリーンお姫さまがとってもチャーミング。少年鉱夫カーディやその両親も、これはよき生活者よき労働者としての理想だろうなあ。地に足のついた温かな暮らしぶりが好ましい。このメルヘンチックな世界観にマクドナルドらしい色を添えるのは、何といっても〈大きな大きなおばあさま〉。年を重ねるほどに美しく誇りかに、けれどアイリーンには毅然としつつもほっこり甘い。神秘的、なんて陳腐な表現では足りない魅力。ゴブリンたちの末路はさすがに哀れだったけれど、楽しく読了しました。
読了日:06月12日 著者:ジョージ・マクドナルド
よるのようちえん (日本傑作絵本シリーズ)の感想
【3歳8ヶ月】幼稚園に慣れてきた息子と一緒に楽しむ。子供達や先生方がおうちへ帰った数時間後。無人となった夜の幼稚園では、昼間の熱気やざわめきの名残りがぼんやりと形をとり、こっそりと顔を出しては名乗っていく。そっとさんはきょろきょろりん、さっとさんはさっさかせ。砂場へ置き忘れたスコップに、心を残してお家へ帰った誰かさんの見た夢かもしれない。ぬっとさんはふんわほわ、おっとさんはすってんとん。トイミュージックが似合いそうな、どこか間の抜けたもう一人のお友達たち。朝になったらまた夕べ、「さよよんならららーん」。
読了日:06月20日 著者:谷川 俊太郎
琳派をめぐる三つの旅―宗達・光琳・抱一 (おはなし名画シリーズ)の感想
代表作に絞った図版は少ないが大きく、解説は簡潔かつ大きな文字で、小学生にも読み通しやすそう。「旅」というタイトルに期待する奥深さはないけれど、琳派と一括りで呼ばれることも多い三絵師の、共通点と個性を並べて味わうにはこのシンプルさが功を奏する。宗達の勢いと力強さ、光琳の絢爛と先鋭、抱一の渋味と端正に、それぞれこの絵師こそが最高だと唸らせられる。難を言えば、光悦をここに加えてほしかった。さらには相伝ではなく私淑と傾倒により流派と見做されたことの、特異な魅力をもっと推してほしかった。うーん、食い足りない!
読了日:06月21日 著者:
日々、蚤の市 -古民藝もりたが選んだ、ちょっと古くて面白いもの。の感想
装丁や文章量は雑誌かカタログの体、読むというよりは写真を眺めるための本。角がとれ木目が黒く浮きあがった鍋蓋、黒く堅く冷たい鉄が妙にぬくぬくと感じられる自在鉤、大福帳の反故を貼り継いで作られた重い暖簾。骨董や古美術と呼ぶには実用的で、美しいと言うよりは親しみ深く、少しの愉快と大きな郷愁を掻き立てるモノたち。肩肘張らない気安さは森田さんのコメントにも通じており、用途の不明なものには想像を膨らませ、こんな人がこんな使い方をしていたのではと楽しげに語ってくれる。カメラの向こうで付喪神も笑っていそうです。
読了日:06月23日 著者:森田 直
カーディとお姫さまの物語 (岩波少年文庫 (109))の感想
地の文の丁寧語や、軽やかにご都合主義で済ませる細部はお伽噺のよう。けれど肉屋の犬達に対する仕打ちの残酷さ、召使い達を追い立てる執拗さには冷水を浴びせられたよう。前作での白眉たる老いた姫の神秘は中盤ではすっかり鳴りを潜め、実際的な少年カーディのシンプルな冒険譚となるも、終盤では華麗な転覆に目を覚まされる。時折覗く説教臭さは、病んだ王が幼児とのふれあいから回復に向かうさまと同じに、読み手の子ども達への作者の思い入れか。哲学がかった物言いや詩的な表現も同じく。お伽噺への回帰を一歩外したラストも印象的。
読了日:06月24日 著者:ジョージ・マクドナルド
もののみごと 江戸の粋を継ぐ職人たちの、確かな手わざと名デザイン。の感想
写真は品物、手元、道具、職人で計3項。文章は経歴やインタビューを上下段組で計3項。33人の職人をそれぞれこの枠に収めて紹介するので、内容は広く浅い。けれどもそこに内包されるものの深さ重さを思わずに読める人はいないだろう。巻末には注釈の他に、品物を買い求める際に必要な情報が付せられているが、甲冑や鼈甲のような高価な品を除いては、どれも手が出ぬほどの額ではない。「手をかけすぎると値が上がる」と、買う人のために腕を磨く職人の意地がそこに見える。しかもある人は「技は借り物」と言い、独占することを良しとしない。
読了日:06月27日 著者:田中 敦子
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