9月に読んだ本
9月の読書メーター
読んだ本の数:10
読んだページ数:1265
ナイス数:684
新装版 星モグラサンジの伝説の感想
小学生のころ大好きで何度も何度も読んだお話、長らく絶版だったものが新装版になって帰ってきた。思えばこれが岡田淳さんとの出会いで、いま読んでもこの人は本当にモグラと話ができるのではないかと思う。ご自身で手がけられた挿画も素晴らしい。ああ、おかえりサンジ、また逢えて本当に嬉しい!ものすごい速さで地中を掘り進むモグラのサンジ、出会ったものは何でも食べる彼をとりこにしたのは隕石の欠片。サンジの爆走ぶりを見るのは楽しいけれど、何よりも終章「それからも」が良い。息子がもう少しだけ大きくなったら、読んであげたいな。
読了日:09月01日 著者:岡田 淳
うす灯(あかり) (偕成社コレクション)の感想
小学生の頃に好きだった本を思い起こし、再読することに燃えた時期が大学時代にあった。その時まっさきに思い出したのが本書で、読み返すまでもなく今回もその内容をよく覚えていた。著者名も版元もレーベルも見ずに選書していたあの頃の嗅覚は、どこから来るものだったのだろう。今回登録するにあたり、初めて本書が多くの人に愛されていることを知って嬉しかった。「重たい鞄」を読み、梨木香歩「コート」(新装版「丹生都比売」収録)で覚えた既視感の正体を知る。今の私の読書の素地は、間違いなく小学校の図書室が作り上げている。
読了日:09月01日 著者:田村 理江
レベル21―アンジュさんの不思議(マジカル)ショップ (童話パラダイス)の感想
小学生のころ大好きだった本。その後の愛読書となる中勘助「銀の匙」、手に取るきっかけを作ったのは本書でした。友人の出産祝いに、シルバークレイでスプーンを作ったことも思い出す。なのに自分の出産時には、なぜか思い出しもしなかったな。いい歳こいた今でも、やはり手の平をみつめてオーラを探す。何も見えないけど、大人になって出産もしたよ。シングルマザーだけど子どもは可愛いよ。レベル21をみつけたくて、アンジュさんに出会いたくて、たまらなかったあの頃の自分に言ってみる。居所のない思いを抱えていても、大丈夫生きていけるよ。
読了日:09月01日 著者:さとう まきこ
おしっこちょっぴりもれたろうの感想
幼稚園に毎日持たせる下着の替えが、ずっしりと丸まって袋に収められていると、ああまたかと気が重くなる。おもらしは精神的なストレスからくるなんて言われると、爪を噛む癖とあわせて「愛情不足なのかも」なんて思っちゃう。片親だからかな、私が短気で口が悪い未熟者だからかな、この子は抑圧されてるのかしら、なんて。でもねえ、あるよね、ちょっともれちゃうことだって。本屋さんで二人で読んで、なんだかすっかり気が抜けた。まあいいさ、そのうち洩れなくなるだろうさ。パンツが濡れちゃったんなら、乾くまで冒険に出掛けたらいいんだから。
読了日:09月02日 著者:ヨシタケ シンスケ
旧(ふるい)怪談―耳袋より (幽ブックス)の感想
「耳袋」(根岸鎮衛、天明〜文化)収録の奇妙な話を、「新耳袋」(木原浩勝・中山市朗、1990)ふうに書き改めた本、35篇収録。カタカナ言葉が散見されたり人名がイニシャル表記だったりと、新耳袋(実話怪談)ふうの作法をとりつつも、語り口はお馴染みの京極節。併録された原文はどれも端的で短く、読みやすくはあるが面白味は少ない。この再話の腕は「遠野物語」でも感じた通り、本書も抜群に読み応えのある仕上がりになっている。印象的だったのは「プライド(巻ノニ、義は命より重き事)」。短絡ながら、子どもが哀れでならなかった。
読了日:09月03日 著者:京極 夏彦
ごんげさま (京極夏彦のえほん遠野物語 第二期)の感想
権化なのか権現なのか、いやそれよりもっと昔、文字が生まれる前からいるカミなのか。表紙のごんげさまは耳も歯も欠けていて、さぞかし多くの修羅場をくぐってきたのだろうと想像する。おしらさま然りごんげさま然り、嫉妬したり喧嘩したりと個性のあるカミは面白い。きっとその組ごとに「うちのごんげさま」への誇りがあり、代々大切に受け継いできたのだろう。画はこのところご縁のある軽部さんで、本書も文句なしの大迫力。人物の肌の色が明るすぎて浮いている気がしたけれど、血肉あるものとそうでないものとの描き分けなのかな。。
読了日:09月03日 著者:京極 夏彦
おいぬさま (京極夏彦のえほん遠野物語 第二期)の感想
おいぬさまは狼だけれど、大口真神や神使となった狼たちよりも、ずっと古い信仰を持っているようだ。ヒトがまだ正しく生態系の中に組み込まれていた頃の匂いを感じる。それは単に喰らわれる弱者としての恐怖ではなく、森の王者への畏怖でもある。そこに命の遣り取りがあるなら、物語は必ず必要とされる。狼はそうしておいぬさまとなったのだろう。遠野を去った彼らを、絶滅したニホンオオカミと重ねるのは安易に過ぎるのかもしれない。けれどこの味気ない現代にヒトだけが取り残されたような、寂しさ心細さを覚えるのは、あまりにも身勝手だろうか。
読了日:09月03日 著者:京極 夏彦
でんでらの (京極夏彦のえほん遠野物語 第二期)の感想
はたこうしろう「なつのいちにち」は大好きな絵本。けれど京極遠野にはたさんと聞いても、なかなかピンとこなかった。あの陽の画風でどのように蓮台野(でんでらの)を?と、戸惑う気持ちがあったのだ。けれども、そもそも陰は陽がなければ生じないものなのだった。姥捨山としての蓮台野を、陰惨に描ける作家はいくらでもいるだろう。けれどもそこは日常から地続きで存在する土地で、元の家族が暮らす村とは、野良仕事の手伝いに行き来する程度の隔たりしかない。想像するに、案外とそれは酷なばかりの慣習ではなかったのかもしれない。
読了日:09月03日 著者:京極 夏彦
氷室冴子: 没後10年記念特集 私たちが愛した永遠の青春小説作家 (文藝別冊)の感想
小6の春休みに銀金に出会い、岩波新書版の日本書紀三巻を苦労して読んだ。それから20年以上が過ぎた今でも、日本神話は最大の興味の対象であり続けている。はるばる奈良へ旅行して、タクシーの運転手さんを困惑させながら縁の地巡りもした。氷室先生の訃報は勤務先の書店で知り、暗澹としながらお悔やみの張り紙をした。完結を読まず仕舞いに終わった愛読書への哀惜を訴え、文芸担当の先輩に慰めてもらった。けれどもその後、少女小説やライトノベルと呼ばれたあの作品たちが、実は作者の血の滲む〈女の身の苦悩〉を背負って世に出たことを知る。
読了日:09月12日 著者:氷室冴子,新井素子,飯田晴子,伊藤亜由美,榎木洋子,榎村寛之,荻原規子,菊地秀行,木村朗子,久美沙織,近藤勝也,嵯峨景子,須賀しのぶ,菅原弘文,高殿円,田中二郎,俵万智,辻村深月,ひかわ玲子,藤田和子,堀井さや夏,三浦佑之,三村美衣,群ようこ,山内直実,柚木麻子,夢枕獏
よるのかえりみちの感想
わあ、懐かしい木炭紙の手触り、と手にとる。とするとこのもこもことした夜の黒は、柳か桑か。鉛筆線にパステル彩色のち木炭か、などと考えながらページを捲る。するとうさぎ頭の無表情に予感した不穏な物語は展開されず、あるのは窓々に切り取られた悲喜こもごもと、それをふんわり包みこむ宵闇のおおらかさだった。夜も8時を過ぎると商店はみなシャッターを下ろし、街灯のこころもとない明かりが路地の暗がりを真の闇に変える。おぶわれた腹の温もりと、背中に貼りつく薄闇の冷たさ、伝わる足取りの頼もしさを思い出す。あの不便さは豊かだった。
読了日:09月15日 著者:みやこし あきこ
読書メーター
読んだ本の数:10
読んだページ数:1265
ナイス数:684
新装版 星モグラサンジの伝説の感想
小学生のころ大好きで何度も何度も読んだお話、長らく絶版だったものが新装版になって帰ってきた。思えばこれが岡田淳さんとの出会いで、いま読んでもこの人は本当にモグラと話ができるのではないかと思う。ご自身で手がけられた挿画も素晴らしい。ああ、おかえりサンジ、また逢えて本当に嬉しい!ものすごい速さで地中を掘り進むモグラのサンジ、出会ったものは何でも食べる彼をとりこにしたのは隕石の欠片。サンジの爆走ぶりを見るのは楽しいけれど、何よりも終章「それからも」が良い。息子がもう少しだけ大きくなったら、読んであげたいな。
読了日:09月01日 著者:岡田 淳
うす灯(あかり) (偕成社コレクション)の感想
小学生の頃に好きだった本を思い起こし、再読することに燃えた時期が大学時代にあった。その時まっさきに思い出したのが本書で、読み返すまでもなく今回もその内容をよく覚えていた。著者名も版元もレーベルも見ずに選書していたあの頃の嗅覚は、どこから来るものだったのだろう。今回登録するにあたり、初めて本書が多くの人に愛されていることを知って嬉しかった。「重たい鞄」を読み、梨木香歩「コート」(新装版「丹生都比売」収録)で覚えた既視感の正体を知る。今の私の読書の素地は、間違いなく小学校の図書室が作り上げている。
読了日:09月01日 著者:田村 理江
レベル21―アンジュさんの不思議(マジカル)ショップ (童話パラダイス)の感想
小学生のころ大好きだった本。その後の愛読書となる中勘助「銀の匙」、手に取るきっかけを作ったのは本書でした。友人の出産祝いに、シルバークレイでスプーンを作ったことも思い出す。なのに自分の出産時には、なぜか思い出しもしなかったな。いい歳こいた今でも、やはり手の平をみつめてオーラを探す。何も見えないけど、大人になって出産もしたよ。シングルマザーだけど子どもは可愛いよ。レベル21をみつけたくて、アンジュさんに出会いたくて、たまらなかったあの頃の自分に言ってみる。居所のない思いを抱えていても、大丈夫生きていけるよ。
読了日:09月01日 著者:さとう まきこ
おしっこちょっぴりもれたろうの感想
幼稚園に毎日持たせる下着の替えが、ずっしりと丸まって袋に収められていると、ああまたかと気が重くなる。おもらしは精神的なストレスからくるなんて言われると、爪を噛む癖とあわせて「愛情不足なのかも」なんて思っちゃう。片親だからかな、私が短気で口が悪い未熟者だからかな、この子は抑圧されてるのかしら、なんて。でもねえ、あるよね、ちょっともれちゃうことだって。本屋さんで二人で読んで、なんだかすっかり気が抜けた。まあいいさ、そのうち洩れなくなるだろうさ。パンツが濡れちゃったんなら、乾くまで冒険に出掛けたらいいんだから。
読了日:09月02日 著者:ヨシタケ シンスケ
旧(ふるい)怪談―耳袋より (幽ブックス)の感想
「耳袋」(根岸鎮衛、天明〜文化)収録の奇妙な話を、「新耳袋」(木原浩勝・中山市朗、1990)ふうに書き改めた本、35篇収録。カタカナ言葉が散見されたり人名がイニシャル表記だったりと、新耳袋(実話怪談)ふうの作法をとりつつも、語り口はお馴染みの京極節。併録された原文はどれも端的で短く、読みやすくはあるが面白味は少ない。この再話の腕は「遠野物語」でも感じた通り、本書も抜群に読み応えのある仕上がりになっている。印象的だったのは「プライド(巻ノニ、義は命より重き事)」。短絡ながら、子どもが哀れでならなかった。
読了日:09月03日 著者:京極 夏彦
ごんげさま (京極夏彦のえほん遠野物語 第二期)の感想
権化なのか権現なのか、いやそれよりもっと昔、文字が生まれる前からいるカミなのか。表紙のごんげさまは耳も歯も欠けていて、さぞかし多くの修羅場をくぐってきたのだろうと想像する。おしらさま然りごんげさま然り、嫉妬したり喧嘩したりと個性のあるカミは面白い。きっとその組ごとに「うちのごんげさま」への誇りがあり、代々大切に受け継いできたのだろう。画はこのところご縁のある軽部さんで、本書も文句なしの大迫力。人物の肌の色が明るすぎて浮いている気がしたけれど、血肉あるものとそうでないものとの描き分けなのかな。。
読了日:09月03日 著者:京極 夏彦
おいぬさま (京極夏彦のえほん遠野物語 第二期)の感想
おいぬさまは狼だけれど、大口真神や神使となった狼たちよりも、ずっと古い信仰を持っているようだ。ヒトがまだ正しく生態系の中に組み込まれていた頃の匂いを感じる。それは単に喰らわれる弱者としての恐怖ではなく、森の王者への畏怖でもある。そこに命の遣り取りがあるなら、物語は必ず必要とされる。狼はそうしておいぬさまとなったのだろう。遠野を去った彼らを、絶滅したニホンオオカミと重ねるのは安易に過ぎるのかもしれない。けれどこの味気ない現代にヒトだけが取り残されたような、寂しさ心細さを覚えるのは、あまりにも身勝手だろうか。
読了日:09月03日 著者:京極 夏彦
でんでらの (京極夏彦のえほん遠野物語 第二期)の感想
はたこうしろう「なつのいちにち」は大好きな絵本。けれど京極遠野にはたさんと聞いても、なかなかピンとこなかった。あの陽の画風でどのように蓮台野(でんでらの)を?と、戸惑う気持ちがあったのだ。けれども、そもそも陰は陽がなければ生じないものなのだった。姥捨山としての蓮台野を、陰惨に描ける作家はいくらでもいるだろう。けれどもそこは日常から地続きで存在する土地で、元の家族が暮らす村とは、野良仕事の手伝いに行き来する程度の隔たりしかない。想像するに、案外とそれは酷なばかりの慣習ではなかったのかもしれない。
読了日:09月03日 著者:京極 夏彦
氷室冴子: 没後10年記念特集 私たちが愛した永遠の青春小説作家 (文藝別冊)の感想
小6の春休みに銀金に出会い、岩波新書版の日本書紀三巻を苦労して読んだ。それから20年以上が過ぎた今でも、日本神話は最大の興味の対象であり続けている。はるばる奈良へ旅行して、タクシーの運転手さんを困惑させながら縁の地巡りもした。氷室先生の訃報は勤務先の書店で知り、暗澹としながらお悔やみの張り紙をした。完結を読まず仕舞いに終わった愛読書への哀惜を訴え、文芸担当の先輩に慰めてもらった。けれどもその後、少女小説やライトノベルと呼ばれたあの作品たちが、実は作者の血の滲む〈女の身の苦悩〉を背負って世に出たことを知る。
読了日:09月12日 著者:氷室冴子,新井素子,飯田晴子,伊藤亜由美,榎木洋子,榎村寛之,荻原規子,菊地秀行,木村朗子,久美沙織,近藤勝也,嵯峨景子,須賀しのぶ,菅原弘文,高殿円,田中二郎,俵万智,辻村深月,ひかわ玲子,藤田和子,堀井さや夏,三浦佑之,三村美衣,群ようこ,山内直実,柚木麻子,夢枕獏
よるのかえりみちの感想
わあ、懐かしい木炭紙の手触り、と手にとる。とするとこのもこもことした夜の黒は、柳か桑か。鉛筆線にパステル彩色のち木炭か、などと考えながらページを捲る。するとうさぎ頭の無表情に予感した不穏な物語は展開されず、あるのは窓々に切り取られた悲喜こもごもと、それをふんわり包みこむ宵闇のおおらかさだった。夜も8時を過ぎると商店はみなシャッターを下ろし、街灯のこころもとない明かりが路地の暗がりを真の闇に変える。おぶわれた腹の温もりと、背中に貼りつく薄闇の冷たさ、伝わる足取りの頼もしさを思い出す。あの不便さは豊かだった。
読了日:09月15日 著者:みやこし あきこ
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