2019年に読んだ本

2019年の読書メーター
読んだ本の数:82
読んだページ数:23254
ナイス数:5361

カレーライスはこわいぞ (ポプラ社の小さな童話 13 角野栄子の小さなおばけシリーズ)カレーライスはこわいぞ (ポプラ社の小さな童話 13 角野栄子の小さなおばけシリーズ)感想
【4歳3ヶ月】おばけのアッチはパペットを持っているので、息子は赤ちゃんの頃から大の仲良し。けれどお話を読むのはこれが初めて、最後まで聞いてもらえるかしらと半信半疑で本を開くも、気がつけばもう最後のページ。この日の夕飯は当然のようにカレーライスとなりました。1冊最後まで聞き通せたポイントは、レトロでたまらなく愛らしい挿画がふんだんに入ること、シンプルでわかりやすくテンポのよいお話の筋、あたりかな。字がとても大きくて文章量はたいしたことがないので、読み聞かせには苦労しませんでした。また違う巻も借りてこよう。
読了日:01月06日 著者:角野 栄子
隅田川―愛しいわが子をたずねて (能の絵本)隅田川―愛しいわが子をたずねて (能の絵本)感想
愛しい我が子の身に何かあったらと、考えたことのない母親はいないだろう。そしてそのこと以上に、考えたくもない惨事はない。いっそ本当に狂えたなら楽になれるのかもしれない、けれど梅若丸の母は違った。舟頭の戯れに即興で見事な歌を返すほど冴えていた、彼女の目を思うとやるせない。添えられた画がまた素晴らしく、悲しみにやつれた面ざしとそこに宿る一筋の望み、そのアンバランスな美しさが強く胸に残る。物語の後の世で、女物狂いは本物の狂女となれたのか。いややはり、彼女は最期まで正気のまま息子の菩提を弔ったのだろう。
読了日:01月13日 著者:片山 清司
「自己肯定感」が低いあなたが、すぐ変わる方法「自己肯定感」が低いあなたが、すぐ変わる方法感想
砕けた文体が読みにくく、内容が入ってこなくて苦労したけれど、発見がいくつもあって面白かった。導入のあるあるネタは自己紹介に使いたいほど共感。ただ後半、自己否定の裏には心の傷がと言われても、本書だけをたよりに自力で対処するのは大変そう。3・4章での方法も根本的にというものではなく、比較的手軽に試せる対症療法のようなものなのだろうけれど、私の想像力でまかなえるものなのか。それよりもまずはトイレ掃除や呼吸法など、わかりやすいものから試してみた方が良さそう。これで本当に改善されるなら言うことないんだけどなあ。
読了日:01月23日 著者:大嶋 信頼
鬼滅の刃 10 (ジャンプコミックス)鬼滅の刃 10 (ジャンプコミックス)感想
1冊まるまるアクションの巻。やはり厚みと重みのある女性の体が美しく、それを生々しく感じさせないデフォルメの匙加減と抜け感のある描線の楽しさ、勢いのよい筆の走りに見惚れる。墜姫の衣装(黒レースの紐パン)もきわどいのに下品でなくて、とってもいいなあ。バトルものは技が出てくると、画としては整っていても何がどうなってるのかわからないというのが本音。けれど本作はそんな時でも開き直ったかのような文章量で、他なら「漫画なんだから画で読ませて!」と言いたくなるところを、流れでそのまま読んでしまう。
読了日:01月26日 著者:吾峠 呼世晴
鬼滅の刃 11 (ジャンプコミックス)鬼滅の刃 11 (ジャンプコミックス)感想
鬼兄妹の道行きに、そっちじゃないよと言いたくなる。けれどもやはり、明るい方には行けないんだろうな。炭治郎の言葉に潜む厳しさと優しさは、死刑囚を前にした牧師のよう。誰にも赦されないと断罪しながら、だからこそお互いを許せと諫めている。たとえば私は報道される残酷な事件の犯人へ、安易に極刑を望んではいないだろうか。怒りに思考停止せず、情に流されることもなく、静かに深く考えることの難しさを思う。鬼を鬼として斬り捨てることは、妹を抱えている限り炭治郎には決して出来ない。かつて人であったことを思わずにはいられない。辛い
読了日:01月26日 著者:吾峠 呼世晴
鬼滅の刃 12 (ジャンプコミックス)鬼滅の刃 12 (ジャンプコミックス)感想
息抜きの巻。恋柱、可愛いー!!このひと正直あんまり好きじゃないかなと思ってたんだけども、予感外れました嬉しい誤算。この漫画ほんと女の子みんな可愛い。男の子も可愛いんだけど。それはそうと玄弥相手の炭治郎の空気読めないとこ、このこ生真面目いいやつだからわざと読んでないフリしてるんじゃなんて思うことあったけど、違うんでしょうね。素だからほだされちゃうんだろうなあ。
読了日:01月26日 著者:吾峠 呼世晴
マギ (23) (少年サンデーコミックス)マギ (23) (少年サンデーコミックス)感想
相変わらず緩急激しく飽きさせないテンポの良さと、王道を少しだけ外れたメッセージの強さ、キャラクターの強烈な魅力に没頭する。何より私は大高さんの画が本当に大好き!描線フェチかもしれないとは思うけれど、このデッサンの確かさとそれを無視する豪快さ、アニメ寄りでややマニアックなキャラクターデザイン、何より流れるようなペンの走りと、それを急速冷凍したかのような鮮度の高さを感じさせるこの筆跡の躍動感!こういう活きの良さが漫画の醍醐味、高尚な美術に押し込められない柔軟さが楽しい。カラーの色遣いも思いきりよくて好き。
読了日:02月01日 著者:大高 忍
マギ (25) (少年サンデーコミックス)マギ (25) (少年サンデーコミックス)感想
まさに圧巻、の一言。これまでイロモノ扱いしてまともに取り合ってこなかった(失礼!人気者なのは重々承知)二名、ジュダルと白龍が、悪役として美事な脱皮を遂げる今巻。私がこの漫画に惚れたバルバッド編、クライマックスかと見紛うたマグノシュタット編、両編ラストに匹敵すると言いたいこの血沸き肉躍る突き抜けた堕転劇!同じ苦境を味わいながら、光差す道を歩き続けられる者とそうでない者がいる。後者二名を描く大高さんの目線は肯定的で慈愛さえ感じられる。だからこその説得力、危うさや痛ましさと共に突き抜けた爽快感が胸に残る。
読了日:02月03日 著者:大高 忍
マギ (26) (少年サンデーコミックス)マギ (26) (少年サンデーコミックス)感想
表紙画いいなぁ。胸熱。白龍がいずれは堕転してジュダルと組むであろうことは初登場の頃から誰もが予感していたと思う。だからこそザガン攻略のあの緩さを楽しくも切なく読んだものだけど、これもいつか来ることは覚悟していたはずの対アリババ戦が、まさかここまで凄惨なものになろうとは。玉艷戦も含めて少ない手数でさらりと描いてはいるけれど、なかなかないわ、このえげつなさ。それはそうと、バルバッド編ではあんなに眩しく大好きだったはずのアリババが、堕転した白龍の前ではなんだか白茶けて見えるのが、なんだか寂しい。
読了日:02月03日 著者:大高 忍
マギ (28) (少年サンデーコミックス)マギ (28) (少年サンデーコミックス)感想
煌帝国編が内戦に入ってから、どうしても大局を描かなければならない関係からか失速を感じていたけれど(なので感想パスした)、今巻に入って白龍サイドの魅せ方にぐいぐい持っていかれた。怒りと復讐を原動力にした孤高の叛逆なんて誰かと重なるわと思ったら、ルルーシュ(コードギアス)なんだわ。それはともかくとして堕転して以降の白龍、心証うなぎ上りです。さらにジュダルもどうにかしあわせになってほしい。で、単純な好悪でいうと当初から嫌悪感のある七海の覇王が、見開きで白瑛(お気に入り)をたぶらかしていて、背中を蹴りたくなった。
読了日:02月04日 著者:大高 忍
マギ (29) (少年サンデーコミックス)マギ (29) (少年サンデーコミックス)感想
大高さん、これだけの紙幅で白龍というキャラクターを、よくぞ描ききって下さいました。紅炎のくだりも、あの辺はさすがに項を捲る手が遅くなり、祈るような気持ちで読み進めました。白龍のためか紅炎のためか、この祈りは誰のものか、わからないけれど失われてほしくない。煌帝国の面々みんなそうです。アリババはね、蘇生は苦手なネタなんだけど置いとくとして、とりあえず紅玉に顔を見せに行ってほしいです。このことだけでもシンドバッドへの嫌悪感増幅中なのに、こともあろうに白瑛にまで。。青舜どこ行っちゃったんだろう、姫様が大変だよ!!
読了日:02月04日 著者:大高 忍
マギ (30) (少年サンデーコミックス)マギ (30) (少年サンデーコミックス)感想
煌帝国編ですっかり白龍に主役の座を奪われていた感のあるアリババの、復帰姿を楽しむ今巻。私自身元々の本命はババだったはずなのに、あれよという間に白龍推しになっていたところだったので、彼の長所をたくさん思い出させてくれる展開が嬉しかった。王子から盗賊に身を落としても、失った祖国を取り戻そうと奮闘する彼の不屈さに胸熱くしたバルバッド編。けれど彼の本領は、そうまでしたことの根拠である身分や立場を軽やかに脱ぎ捨て、それでも笑っていられる自由さにあるのだろう。けれどもまさか、煌帝国のために奔走する日が来ようとは。。
読了日:02月06日 著者:大高 忍
マギ (31) (少年サンデーコミックス)マギ (31) (少年サンデーコミックス)感想
アラジンがお子様から少年に、楽しいけど正直切ない。この時代の三年はほんとに大きい。成長したザガン組の感慨深さときたら、まさか白龍がここまで喰い込んでくるとは。アリアラモルの三人組に、追加キャストの席は不要だと思っていた昔が懐かしい。こうなると気になるのはジュダルの行方だけど、この子も昔はコテコテの悪役だったよなあ。堕転から脱した白龍を見て、彼がどんな反応をするのか楽しみなような怖いような。宇宙空間を一人で漂う姿に心象風景が重なって、マギが王の器を探してしまうのは、たんに寂しいからなんじゃと思ってしまった。
読了日:02月07日 著者:大高 忍
マギ (32) (少年サンデーコミックス)マギ (32) (少年サンデーコミックス)感想
ユナンの本領発揮を楽しみにしてたのに、表紙にまでしといていっそ清々しいほどの噛ませ犬扱い!そしてそれを忘れるほどのザガン組(欠員あり)のプロフェッショナぶりと、さらに上書きしてくるアルバ戦のえげつなさ。毎度ながら振り幅広すぎ、出し惜しみのなさが素晴らしい。そしてこれからようやくラスボス化したおじさんが大人気なく立ち塞がってくるのか。とても魅力的で人気の高いキャラだけど、どうにも私は彼が苦手。それは多分、少年漫画では見たくない大人の面を見せてくるからなんだろうけど、それだけではないモヤモヤもある。何なんだ。
読了日:02月07日 著者:大高 忍
マギ (33) (少年サンデーコミックス)マギ (33) (少年サンデーコミックス)
読了日:02月07日 著者:大高 忍
マギ (34) (少年サンデーコミックス)マギ (34) (少年サンデーコミックス)感想
魔装が派手で週刊連載を疑いたくなる手数と作画クオリティ。アシスタントさんの技量があるにしても、大高さんは相当ペンが速いんだろうなあ。お話はこれまでの地に足の着いた展開から凄まじく飛躍していて、ルフの書き換えと言われてもピンとこないし、シンドバッドのやり口は気持ち悪すぎるしで、読んでいて自分が今お話についていけてるのか、居心地の悪さを感じていた。とはいえやっぱりこのマギと王の白黒セットは嬉しくてわくわくする。モルさんお留守番は少し寂しいにしても、前夜の語らいは楽しくてにやにやしちゃった。あとやっぱ白龍好き。
読了日:02月07日 著者:大高 忍
マギ (35) (少年サンデーコミックス)マギ (35) (少年サンデーコミックス)感想
アリババのプレゼン能力全開の巻。少年漫画の主人公としては地味で目立たないけれど、このコミュニケーション能力の高さが彼の一番の武器。おそれずに人を好きになること、ためらわずにそれを表に出すこと。信じてくれる誰かがいると、人はそれだけで自分を少し好きになれる。周囲の人々を心酔させるシンドバッドとは全く違うけれど、アリババは近くにいる人みんなを前向きにする力がある。関わる人たちを少しずつ変えていく。自分より下だと見くびった相手から学ぶことはできないけれど、誰のことをも尊敬できるなら、学び続けることができるんだ。
読了日:02月08日 著者:大高 忍
マギ (36) (少年サンデーコミックス)マギ (36) (少年サンデーコミックス)感想
中沢新一「神の発明」をぼんやりと思い出しながら。対シンドバッド編(仮)に入ってからいまひとつ乗りきれないまま読み進めてきたけれど、このままクライマックスへ向かうのかと思うと気が急く。主要キャラ勢揃いはさすがに胸が熱くなるものの、こんな再会は辛すぎる。ババの不屈さを痛ましく眺めながら、試練の連続は紅玉も同じだったことに気付く。長所が見えにくいところも少し似てる。話は変わるけど、白黒マギ王組揃ってのアクションを私はもっと見たかったよ!堕転を脱した白龍でも側にいるジュダルに喜んだのは私だけではないはず。。
読了日:02月09日 著者:大高 忍
マギ (37) (少年サンデーコミックス)マギ (37) (少年サンデーコミックス)感想
旧世界の遺児で創世の魔法使い。重すぎる願いを背負わせられ、けれど肉親の情だけは知らない。アラジンの抱える闇は深い。でもきっと大丈夫でしょう、何しろ選んだ王の器はあのアリババ。彼は死にものぐるいで取り戻した祖国でも王冠を被ることはなかったけれど、そのかわり、一人ひとりがその人自身の王様であることに気付かせてくれる。間違わない人はいない、たとえ眩しい誰かがいてもその人だけに導かせてはならない。人は守りたいもののためになら何でもする。だから争いはなくならない、けれどそれを止める声もなくなりはしない。
読了日:02月09日 著者:大高 忍
マギ (25) (少年サンデーコミックス)マギ (25) (少年サンデーコミックス)感想
煌帝国編2周目。改めて読むと、白龍を引き入れることに成功したジュダルは、心底楽しそうだし嬉しそう。強制的に堕転させられることさえなければ、この子も実はアラジンばりの純粋で素直なマギに育ったのではないかと思っちゃう。言うまでもなく、ジュダルの魅力はそんな〈もしも〉を笑い飛ばす豪胆さにあるんだけど。悪を善と錯誤しているのではなく、あえて悪を気取るのでもなく、悪を悪と知っていながらもそれをしか選べない。光差す方へ進もうとしながらも、身の内にある怒りをどうしても無視することができず、苦しんだ末に選び取った道。
読了日:02月14日 著者:大高 忍
美しき小さな雑草の花図鑑美しき小さな雑草の花図鑑感想
再読。寒さが和らいできた頃、本棚から抜き出してきた。道端の草花や小さな虫へ目を留める息子に、「帰ったら図鑑で調べてみようか」と声をかける。こんな可憐な花にヤブシラミなんて、と文句を言う私に「茎がふわふわだから、ふわふわりん」と新しい名前をつけていく。「西の魔女が死んだ」で〈姫忘れな草〉と呼ばれたキュウリ草は「赤青さくら」とのこと。根ごと引き抜いたナズナを耳元で揺らし、アブラムシに気付いて取り落とす。テントウムシの脱皮殻に感動する。95センチだと思っていたけど99センチになっていた彼の、4歳の春。
読了日:03月24日 著者:多田 多恵子
ふくろう模様の皿 (児童図書館・文学の部屋)ふくろう模様の皿 (児童図書館・文学の部屋)感想
それぞれが懸命に自分自身を生きているのに、ふとこれは誰かのつけた道筋をなぞっているだけなのではと感じることがある。谷底に集まるのは水だけではない。流れ込んで堰き止められた気は満水を迎えるたびに溢れ出し、水底に隠されていた古い物語が顔を出す。屋敷に集う三人の若者と、かつて若者だった者たち。花から創られた乙女は恋を知って梟となり、男たちは岩をも貫く槍を持って殺し合う。グウィンとロジャが手を取り合ったラスト、舞い降りてくる花に曼珠沙華を重ね見た。それは瑞祥、彼女は花でいたいのだから。
読了日:04月01日 著者:アラン・ガーナー
冬の龍 (福音館創作童話シリーズ)冬の龍 (福音館創作童話シリーズ)感想
読み始めてすぐ、これは男の子版「十一月の扉」だと思った。親元を離れてひとり下宿屋〈九月館〉に暮らす、十二歳のシゲル。父親とのわだかまりがあり、一癖ある下宿人たちとの交流があり、大家のおばさんとの絆がある。そして何より、ケヤキの化身・小槻二郎と雷の玉を巡る探索劇が地味ながら楽しい。シゲルの置かれた状況はなかなか厳しく、片親で息子を育てる私はどうしてもそこにわが子を重ね、息苦しくなる処もあった。けれども全体に読み味は易しく、書き込みすぎない心理劇もバランスよく読了できた。なんとも樹らしい小槻二郎の存在感よ。
読了日:04月09日 著者:藤江 じゅん
銀のほのおの国 改訂版 (福音館創作童話シリーズ)銀のほのおの国 改訂版 (福音館創作童話シリーズ)感想
異世界へ迷い込んだ兄妹と物言う動物の冒険についナルニアを重ねたが、実際その訳出と同時期に発表されたのが本書なのだ。児童文学の古典に触れるつもりで項を進め、けれど青イヌのひめ登場の辺りから目を離せなくなった。幼いころ我が家には鶏小屋があり、常には卵が、そして正月にはその肉が食卓に並んだ。捌く役目は主婦のもの、私はそれを義務のように感じながら背後から見ていた。私達は他に犠牲がなければ生きていけない、それを原罪と名付け救済する絶対者アスランは登場せず、トナカイ王はやては言う。勝者はやがて敗者を肥やす糧となると。
読了日:04月14日 著者:神沢 利子
鍵の秘密 (福音館創作童話シリーズ)鍵の秘密 (福音館創作童話シリーズ)感想
ある日ノボルの元に届いた古い鍵。それはどんな扉も開けてしまうが、その先にもう一つの世界を繋げてしまうものだった。恐れに閉じ籠もり肥大してゆく闇の城に、光溢れる地獄が四角く口を開ける。揺れる天秤、秘密と勇気。蒸発した父を探すノボルと、父を陰謀から救いたい王女。「空をごらん」響き渡る合唱に消え入る呼びかけ「おとうさん!」助けてくれた親友は、幼い頃に父を亡くしている。上手い語り手の書く本は、読むというよりも聞く感覚になる。1ページ目から耳をすました作家さんは久しぶり。これだからこそ私は児童書が大好きなのだ。
読了日:04月17日 著者:古市卓也
かはたれ (福音館創作童話シリーズ)かはたれ (福音館創作童話シリーズ)感想
みなしご河童の八寸と、母を亡くしたばかりの少女、麻。朝はかはたれ、暗が明に転じゆくとき。耳に聞こえない音楽を探すあさ、目に見えない傷を月の光に晒すよる、あわいの生きもの河童猫。不具ゆえに取り残された子供は泣いただろうか、皆と共に行きたいと。落第盲導犬のチェスに、妻を看取り損ねた夫、取り残された者ばかりの家にハメルンの笛は聞こえない。けれど会えないからといって、その人はいないと言えるだろうか。聞こえる音楽は美しいが聞こえない音楽はさらに美しいと、教えてくれたその人が。夜が明けるように開かれてゆく心の物語。
読了日:04月20日 著者:朽木 祥
黒猫が海賊船に乗るまでの話黒猫が海賊船に乗るまでの話感想
客電落ちる、客席には本を抱えた私。開幕。明転、港。船長は酒場の片隅で怪しげな黒猫と出会う。暗転、家。意固地な老人がある日思い立って人形芝居を始める。幕間、人形たちによる人形たちのための劇中劇。芝居はやがて現実を越え、人形はいつしか操られることをやめて出掛けた。客電上がる、人形使いが人形に、人形が人形使いに問いかける。さて演じているのは誰で見守るのは誰なのか。導入はさすが、中盤やや冗長に、終盤語りすぎの気はありつつも、満足のうちに読了。やはり語りの巧さ、これに尽きる。読み終えてすぐまた冒頭に戻りたくなった。
読了日:04月26日 著者:古市 卓也
風と行く者 (偕成社ワンダーランド)風と行く者 (偕成社ワンダーランド)感想
若い頃の忘れていたい出来事は、当時の根強い羞恥や後悔が記憶に蓋をしているだけで、いざその蓋を外してみると、その頃一緒にいてくれた人の優しさや勇気に今さらのように気付くことになり、驚いたり嬉しくなったりする。今の自分があの頃よりいくらか成長できているとすれば、それは忘れていたあの人たちの存在があったからなのに。バルサの過去は壮絶だから、こういうところで親近感を持てると少し嬉しい。ジグロがいて、タンダがいて、旅と血があって現在のバルサがある。そのバルサがエオナやルミナに関わり、また新たな過去を作っていくのだ。
読了日:04月28日 著者:上橋菜穂子
物語と歩いてきた道 インタビュー・スピーチ&エッセイ集物語と歩いてきた道 インタビュー・スピーチ&エッセイ集感想
バルサとの再会ついでに借りた本。幼い頃は病弱で物語を友だちに育ったこと、臆病な自分の背中を蹴飛ばすように文化人類学を学び始めたことなど、この手の本をすでにいくつか読んでいる身には、内容に目新しさは感じなかった。面白かったのは、本屋大賞の副賞図書カード10万円で購入した本のリスト(共読は1冊、中沢新一「対称性人類学」のみ)と、上橋菜穂子書店の品揃えリスト(こちらは共読本たくさん!)。おかげで読みたい本が増えたし、長年の積読サトクリフへの手引きもしてもらった。そうか、これがタイミングなんだろうな。
読了日:04月30日 著者:上橋 菜穂子
プラネタリウムのふたご (講談社文庫)プラネタリウムのふたご (講談社文庫)感想
だまされる才覚がひとにないと、この世はかさっかさの世界になってしまう。星の見えない村のプラネタリウムで拾われ、彗星にちなんで名付けられたふたご。ひとりは手品師に、ひとりは星の語り部になった。(紹介文より)二十歳のころに出会って以来、心の中のくらやみに輝きつづける北極星のような物語。本を読んで感じたあれこれを感想にまとめるいつもは楽しいその作業を、本作に限ってはしようと思わない。何か一つを言葉にすると別の何かを取りこぼす、その大切な何かでこの物語は出来ている。私にもまだ、だまされる才覚はきっとある。
読了日:05月13日 著者:いしい しんじ
海獣の子供 (1) (IKKI COMIX)海獣の子供 (1) (IKKI COMIX)感想
海に棲むおおきな生きものが好きで、おおきな生きものがおおきな海を泳ぐ姿が好きで、けれども私はたいして泳げないので、彼らを水族館でしか見ることができない。それでもガラスで囲い込むうしろめたさをつい忘れて見入る。映画の予告で見た映像がすばらしく、同じように水族館好きの息子4歳と一緒に観に行けるかしらと、確認のために手に取った本書。本の中の画の中で泳ぐ海と空の姿、陸の上で息苦しそうな少女るか。字の読めない息子が覗きこんで、アメリカマナティ!ジンベエザメ!と喜んでいる。続きを買ってこなければ。
読了日:05月19日 著者:五十嵐 大介
麦ふみクーツェ (新潮文庫)麦ふみクーツェ (新潮文庫)感想
はじめて打楽器にふれた人間のように叩きたいというおじいちゃん。いしい作品はいつでも私に、はじめて物語を読んだ時の感動を思い出させてくれる。童話や昔話を思わせる朴訥な語り。ねずみ男にみどり色、へんてこな名前のひとびとは皆どこか懐かしい。けれど物語には時にしんじられないような悲惨なできごとが起こる、この現実のごとく。とん、たたん、とん、と麦ふみのように、ひとびとはこもごもの悲喜を踏みならす。弱い麦は土の肥やしになる、麦ふみにいいわるいはない。これはへんてこがへんてこさに誇りをもつための、力強いファンファーレ。
読了日:05月20日 著者:いしい しんじ
世界の真ん中の木 愛蔵版世界の真ん中の木 愛蔵版感想
人物と背景が分離することなく、全体で一枚の画として見せてくれることの嬉しさ。言葉よりも雄弁に、人も生かされている命のひとつにすぎないと教えてくれる。けれど本書が何より素晴らしいのは、その生かされている人がさらに、種を運ぶ役割を担っていること。そこに少年少女の出逢いと旅が繊細に重なること。樹上の天には死のみなもと、地中深い根の国には母なる海というのも、安易な逆転に終わらない面白さ。顔と体が乖離することなく、動きの中で心象を表して見せてくれることの楽しさ。そうだアニメって、絵が動くことの感動が始まりなんだわ。
読了日:05月22日 著者:二木 真希子
貝の子プチキュー (日本傑作絵本シリーズ)貝の子プチキュー (日本傑作絵本シリーズ)感想
山内ふじ江さんの装画に惹かれて手に取る。文は茨木のり子さん、版元は安心の福音館。ならばと借り出してきた本書を、海好きの息子は目敏く見つけて「これ読んで」。美しく愛らしい画とユーモラスな言葉選びにうきうきと読み進める、ここまでは想定内。けれどもラスト、プチキューを待ち受ける運命には愕然とした。ここでつい狙いやメッセージを探ってしまうのは大人の悪癖か、息子はさして驚いたふうもなく「プチキューは海の子だからおいしかったの?」と。そうだね、潮のあじがしたのかな。カニの子もきっと同じあじだろうね。見上げれば星月夜。
読了日:05月22日 著者:茨木 のり子
たそかれ 不知の物語 (福音館創作童話シリーズ)たそかれ 不知の物語 (福音館創作童話シリーズ)感想
正直前作とくらべてつくりが甘く雑な印象は拭えないものの、八寸のかわらぬ愛らしさと成長した麻の姿はやはり見ていて嬉しく、再会ついでに言葉まで交わせるなんて、表紙絵ちょっとなあなんて文句言ってごめんね不知、という気持ち。今回は聞こえない音楽推しが全面に出すぎていたけれども、校長先生の話以下戦争のふれかたには胸を打つものがあった。身近な人を亡くすと幽霊があんまり怖くなくなる、むしろ化けてでてこい!と願ってしまう。不謹慎という考え方はあまり好きではないけれど、むやみと不気味がる気にはなれなくなる、それは確かだ。
読了日:05月23日 著者:朽木 祥
海獣の子供 (5) (IKKI COMIX)海獣の子供 (5) (IKKI COMIX)感想
予定をすべてなげうち休日一日使って一気読み。感覚的なようでいてかなり理屈っぽいお話。理詰めのパースやトーンワークに頼らずほぼペンの走りだけでこれだけ魅せてくれるなら、ここまでの文章化は蛇足のような。つい文化人類学や民俗学、心理学や自然科学の読み齧りが脳裏を掠めてしまう。けれどもミクロとマクロを重ねて解き起こす海と宇宙と胎内の誕生という現象、ただそれだけを描ききって終えるこの潔さは心地よい。大海原を水槽のように見渡す神の目線ではなく、それに翻弄される少女の目線で描かれた巨大な海獣たちの姿がとても良かった。
読了日:05月29日 著者:五十嵐 大介
第九軍団のワシ (岩波少年文庫 579)第九軍団のワシ (岩波少年文庫 579)感想
槍と馬が戦果を左右する時代の物語。12年前に謎の失踪を遂げた軍団が掲げていたローマの象徴、黄金の鷲を求めて辺境へと向かう傷痍軍人マーカス。友人とも従僕ともつかない解放奴隷エスカ、彼が心情を語れば別の物語がひとつ生まれるだろうが、作者は黙して読み手の良心に委ねたようだ。支配側の傲慢さから自由になりきれないマーカスに覚える苛立ちと親近感。辺境への旅では何よりも少数部族の生活風景、特に成人への通過儀礼の様子が面白かった。ラストには苦味もあるが、失った先で得たものの大きさに清々しい気分で本を閉じた。
読了日:06月12日 著者:ローズマリ サトクリフ
銀の枝 (岩波少年文庫)銀の枝 (岩波少年文庫)感想
心優しく繊細な軍医ジャスティンと明朗快活な司令官フラビウス。マーカスの系譜に連なる2人の出会いから始まった物語は、複数の皇帝が鎬を削る斜陽の古代ローマを舞台に展開する。軍団の末端にいながら巻き込まれた皇帝の交代劇、降りかかる裏切りと告発のドラマは過酷だが、明暗バランスの取れた主人公2人の信頼関係に隠微なときめきを抱く。物語の象徴を題名に冠するのは前作同様、けれどもクーレンと偉大な小男カロウシウス帝、さらにはあの滑稽で心大きなポウリヌスをも重ねる「銀の枝」には感慨も一入。次作のタイトルも雰囲気があって素敵。
読了日:06月26日 著者:ローズマリ サトクリフ
蘇我の娘の古事記 (時代小説文庫)蘇我の娘の古事記 (時代小説文庫)感想
皆で火を囲み語り手の声に耳をすませた時代、物語はその時々で形を変えるものだった。日々の憂さを忘れるために、人生の指針を得るために、誰かを慰霊し鎮魂するために。そのままでは流れて消えてしまう伝承を紙の上に留めておこうとするのは、忘れられない誰か、忘れたくないものごとを胸底に抱えているからだ。自分が死んだ後にも誰かに知っていてほしい、そこに記しておかなければ省みられることなく忘れ去られてしまう、声なき人々の魂の叫び。哀しみ、恨み、望み、願い、そこに生きていたことの証し。
読了日:06月29日 著者:周防柳
高天原──厩戸皇子の神話 (単行本)高天原──厩戸皇子の神話 (単行本)感想
楽しかった!記紀よりも古い成立を持つ幻の国史、厩戸と蘇我馬子が心血を注いだ「天皇記・国記」。その編纂風景を史(ふひと、文官)である船龍の目線から描く。記紀で知る物語とはひと味違うその〈原型〉、瞼の裏に立ち現れてくるおどろの夢、それらに在位中の大王カシキヤヒメを重ねてアレンジする厩戸の編集手腕。政治嫌いで本の虫、いつも角髪が歪んでいる厩戸の軽妙なキャラもいいけど、腹黒いばかりでない馬子の人間臭さがとてもよかった。厩戸の手足となり物語を収集して回った船龍、彼がその後の斑鳩宮をどう眺めたのかを思うと少し切ない。
読了日:07月04日 著者:周防 柳
雨上がり月霞む夜 (単行本)雨上がり月霞む夜 (単行本)感想
歳をとらない友と口の悪い兎の大妖に手を引かれ、医者見習いの秋成は少しずつ異界を覗き始める。後に「雨月物語」として纏められることになる物語の、これは種となる日々の出来事。記憶の隅にある原典を重ねながら、けれど本作単体でも楽しく読める。おどろしさはほとんどなく、秋成と雨月を取り巻く人々の優しさや悪口雑言を吐く兎の愉快、恐さよりも哀れを覚える妖かしたちの物語を、絶妙な匙加減で軽やかに仕上げている。晩年目を病んだ秋成の前に再び遊戯が現れ、雨月の面影を追いながら「春雨物語」を物す、なんて続編が出たらとても読みたい。
読了日:07月11日 著者:西 條奈加
無貌の神無貌の神感想
無貌の神ならぬ無貌の本ではないか、得るものも失うものもない短編ばかりだ、とため息を吐きかけた頃に出てきた「死神と旅する女」(汽車の場面は乱歩読者へのサービスか)。ああこれ、こういう読み味を期待していたんだわ。けれどもやはりまだ足りない、私の欲しい恒川さんの匂いはこれでは薄い、と燻っていたら最後に「カイムルとラートリー」、終わり善ければとはこのことか。「竜が最後に帰る場所」を読み終えたときの、はるかな思いが戻ってくる。これが恋しくて私はこれからもこの人の本に手をのばすんだろう。もちろんもう無貌の本ではない。
読了日:07月13日 著者:恒川 光太郎
滅びの園 (幽BOOKS)滅びの園 (幽BOOKS)感想
人は拠って立つところによって意見も善悪の基準も変わる、その自明のことを読みながら何度も実感再確認した。冒頭で鈴上に持った感情は共感や同情だったけれど、最後にはやはり嫌悪感が強かった。またこの次々に移ろう印象の奇妙な感覚を味わってみたいような、いややっぱり御免だと頭を振りたくなるような、相反する読後感を楽しむ。普段私が好む物語は根をもち巨きな何かと繋がっている印象を持つが、恒川作品は何だかふしぎな根なし草のよう。読み終えたとき感じるのは風、そこに重みはない。けれど心地好いのは漂泊への憧れがあるからか。
読了日:07月18日 著者:恒川 光太郎
金色機械金色機械感想
金襴緞子を身に纏い、鬼の城を壊滅させる金色のアンドロイド。幾つもの人生が断片となり重なり合う先で、なんと鮮烈なこのイメージ。時代物かファンタジーかSFか、もう恒川物でよいのではという安定した世界観を今回も楽しんだ。法に任せて思考停止することをゆるさない、人治の下での善悪とは何か。境界線はいつも曖昧で、その人その時その場合によりゆらゆらと揺れ動く。極楽園がその始めは地獄ではなかったように、肉親の仇ともいつか睦みあい慈しみあう時がくる。集積回路の心臓も、硬い肌の下あたたかな死神の手に包まれる。おやすみなさい。
読了日:07月30日 著者:恒川 光太郎
こちらあみ子 (ちくま文庫)こちらあみ子 (ちくま文庫)感想
これは悲しい話だという時、悲しんでいるのは誰だろう。悲しさを悲しさと理解しないことが悲しいと言う時、言う私はどこに依って立つ私なのか。人を憐れむのは苦手だ、自分の優位を引け目に感じるから。憐れまれるのも苦手だ、甘えと反発で混乱するから。少なくとも自らを悲しんでいないあみ子に、傍観者の涙は通用しない。あみ子が他人を否定も肯定もせず疑問も持たないのは、あみ子自身が親にそうされてきたからか。諦めと無関心。私が抱きしめてみたところで、それはあみ子自身をそうしたことにはならない。己の思い込みを抱いたというだけだ。
読了日:07月31日 著者:今村 夏子
赤いペン (文学の森)赤いペン (文学の森)感想
「何か、物語はあるかい?」落とし物として現れ、記憶と心の狭間に沈んでいた物語を拾い上げては何処かへと消える赤いペン。持つ人を選びながら旅をしているというそのペンを追って、中学生の夏野は調査を始める。星々を繋いで星座を描くように、私たちは物語を欲している。生と死の間を、他人と自分の間を、繋いでくれる何かがなければ寂しくて堪えられない。私という現象を、中空に浮かんで消える一瞬の光点だと悟るのはとてもしんどい。「物語の力を信じている」いや、物語を呼吸している。それなくしては生きていけない、水や陽光のようなもの。
読了日:08月03日 著者:澤井 美穂
太陽と月の大地 (世界傑作童話シリーズ)太陽と月の大地 (世界傑作童話シリーズ)感想
優美な装丁、お伽噺めいた表題、異国の著者名。項を開いてみればそこは中世スペインの農村、信教と改宗の如何により身分が上下される世。世界傑作童話とのシリーズ名を思わず見返すシビアさ、けれど当初その格差は若者達の恋心が軽く飛び越えていけるもののように思えた。初々しい二人に洞窟の魔女は言う、太陽には気をつけろ。若き日の祖父たちが駆けていく裏表紙、向かう先には波へと沈む夕日。カトリックとイスラムが日と月だとして、それらが交わる刻もあったのだ。ならばこの波は、フランシスコとエルナンドの渡ったジブラルタル海峡だろうか。
読了日:08月06日 著者:コンチャ・ロペス=ナルバエス
七つの季節に七つの季節に感想
思い出話のような創作のような掌編が七つ、「ブレーメンの音楽隊」「七福鳥」が楽しかった。肌では知らないはずの昔、なのに妙に懐かしい。それは子どものころ読んでいた古い児童書、その中で親しんだ時代だからだろうか。マトリョーシカの中で再会する田舎の街灯、木の支柱に白熱灯の丸い光。お盆を前にして読む「夏の宝物」は母方の本家、鹿児島で過ごした夏休みが目に浮かぶ。本書ほどではないにしろ、街にも人の目端にもまだ余白のあった時代。ゆったりと水槽を横切るレッドテイルキャットの背の上で、アラビアハツカネズミが笑っている。
読了日:08月10日 著者:斉藤 洋
神隠しの教室 (単行本図書)神隠しの教室 (単行本図書)感想
小6姪のお薦め本。装丁からほのぼのしたお話を想像していたが、読んでみるとかなり重くシビアな問題を含んでいて驚いた。大勢の児童や先生が集まる昼日中の小学校、そこから忽然と姿を消した五人の子ども達。彼らはそれぞれ誰にも言えない悩みを抱えていた。<もうひとつの学校>へと閉じ込められた五人と彼らを探す現実側、同時進行で語られる物語の先が気になって一気読み。苛め、虐待、育児放棄、さらにその先にあるもの。最後に残ったあの子があらゆる感情を突き抜けて出した答え、そこに至るまでを思うと涙も凍るが、希望のあるラストに安堵。
読了日:08月12日 著者:山本 悦子
ともしびをかかげて〈上〉 (岩波少年文庫)ともしびをかかげて〈上〉 (岩波少年文庫)感想
兄妹と故郷を描写した甘美な冒頭から急転、ローマ軍の十人隊長から奴隷へと身分を落としたアクイラ。失意の底から見えた光は妹、闇は仇。けれど生きるための柱は二本とも数日のうちに折れて消える。マーカスにはエスカ、ジャスティンにはフラビウスがいたのに、アクイラのためのフラビアのなんと残酷なことか。軍からの脱走や家族を襲う掠奪よりも、愛する者の死を願わずにいられなかったアクイラの荒んだ心が悲しい。部下を仲間と呼ぶブリテンの王、アンブロシウスの元で力を取り戻すアクイラは、もはや新しい誰かかもしれない。
読了日:08月17日 著者:ローズマリ サトクリフ
ともしびをかかげて〈下〉 (岩波少年文庫)ともしびをかかげて〈下〉 (岩波少年文庫)感想
ずっと喉に引っ掛かっていた小さな固い塊がすっと溶け落ちていく感覚。思えばこれはアクイラとブリテンが生死に関わる大きな喪失に直面し、それを回復するまでの物語なのだった。ネスとの和解にフラビア、フラビアンとの和解にマルがそれと知らず関わり、凝り固まったアクイラの心を解していく。と同時にローマ軍の庇護を失ったブリテンはサクソンの脅威に対抗するため、一つの旗の下に諸部族の力を結集する。サトクリフ作品に言われる人生と歴史の巧妙なリンクが前二作よりずっと顕著、なんて緻密で地道で鮮やかな。鳥の声と花の香りが記憶に残る。
読了日:08月19日 著者:ローズマリ サトクリフ
ローズさん (フレーベル館 文学の森)ローズさん (フレーベル館 文学の森)感想
「赤いペン」がとても良かったので同じ作者のものを探してみたら、文学館の二人に再会できて嬉しい限り。今回もきっと仕掛けがと身構えてしまったせいでラストに驚きはなかったけれど、それでも<お気に入り>本棚に迷いなく追加したのは、やはり本作でも<物語>への姿勢に共鳴したから。都市伝説の調査はそのまま民間伝承の伝播の過程で、民俗学好きの血が騒ぐ。けれどもそれ以上に文学のあり方、書かれたものだけが文学ではないという言及に胸を打たれる。私はそれを物語と呼び換えて深く頷く。そうだ、書かれたものは物語の一部でしかない。
読了日:08月23日 著者:澤井 美穂
迷家奇譚迷家奇譚感想
夏休みも終わり近くになると無性に怪談が読みたくなるのは、それが挽歌と音を通じる頃合いだからか。日差しの厳しい盛夏は前向きな力が強すぎて、幽霊も妖怪も姿を眩ます。けれども私は怖がりで本格的なホラー小説は苦手だから、思い出話や民俗学に寄り道していく本書の気ままなスタイルは心地好かった。扱う民俗ネタや猟奇事件は既知のものが多かったが、冒頭の遠野旅行や息子さんとのエピソードなど、随筆か創作か曖昧な一連の文章は雰囲気があり面白かった。次はもっと目新しいものを、この淡白な文体を崩さずに書いてほしいな。
読了日:08月25日 著者:川奈 まり子
熱帯熱帯感想
手品師が広げた手札のように重なり合いながら少しずつずれていく世界、角を揃え箱へ戻したとしてもそれは元いた場所と同じではない。自律した物語というよりは自制のきく賢い読み物のようで、入れ子状のあれこれも展開というよりは手法を感じる。ただ<創造することは支配すること>なら、この違和感も魔王の仕業と納得しようか。物語ることで一夜の生を繋ぐシャハラザードと、物語でしか餓えを満たせない王様。閨では次々と生まれて消える狂気、それは熱帯の生命活動のように目まぐるしい。否応なしに惹かれていく、これも千一夜物語に連なる一冊。
読了日:09月07日 著者:森見 登美彦
椿宿の辺りに椿宿の辺りに感想
ここにある痛みとどう向き合うか。鎮痛剤を飲んで当座の平穏を得る、手間隙をかけて原因を探る。氾濫を繰り返す川には?暗渠を作り閉じ込める、氾濫も川の一面として身の振り方を考える。痛みも氾濫も土地に残る昔の悲劇も、こちらの手に負えるものでないなら、謙虚に受け止めるしかないのだろう。それは一切身を引くということではなく、本来の姿を失わないよう細心の注意を払いながら、必要な手は入れ、その上で共生するということ。私が梨木さんを慕うのは、だからなのだ。文章ではないところで、いつも受け入れてくれている。
読了日:09月09日 著者:梨木 香歩
厨師、怪しい鍋と旅をする厨師、怪しい鍋と旅をする感想
何とも言えずおいしい読み物。口に入れた途端にはっとする味ではなく、二口目でおやと思い、三口目でやはりと唸り、次々と箸を進めながらもその素材にはピンとこず、最後には空になった皿を眺めながら「何の料理かはわからなかったが、とにかくまた食べてみたい」、そういう一冊。息苦しい浮き世から少しだけ距離を取るように登場人物達は皆どこかずれていて、そこに生じた隙間には、魔性の鍋や廃屋の妖怪や饅頭好きな川の神が忍び込む。筆致はやや荒いながらも飄々と書き流す匙加減が絶妙で、この一篇で止めておこうと思いながらつい項を捲った。
読了日:09月14日 著者:勝山 海百合
火狩りの王〈一〉 春ノ火火狩りの王〈一〉 春ノ火感想
プロメテウス、神の火、と連想し、高村薫が浮かび、あの彗星の抱く火が原子力でないことを願った。人類最終戦争後の世界、なんて解説をもし先に見ていれば、手に取らなかっただろう。身近に天然の火があるだけで体内から発火して死ぬ、という設定も然り。ファンタジーに期待するのは物語の自律と体感、それを与えてくれる場面はどれも過酷で、喜ぶに喜べない。けれどこれだけ書いておきながらすぐにも二巻へ手を伸ばす私は、すでに引き込まれているんだろう、この手探りの物語に。見るべき地獄はすでに見た、あとはどう足掻きどう登っていくかだ。
読了日:09月20日 著者:日向 理恵子
火狩りの王〈二〉 影ノ火火狩りの王〈二〉 影ノ火感想
過酷な旅を終え、首都に足場を得て落ち着いた灯子たち。ほっと胸を撫で下ろしたのも束の間、千年彗星の帰還を予期した人と蜘蛛と神族、それぞれの思惑が動き始める。かなたを介した出会いあり、神族の少年の登場あり、文字通り根の国へ封じられた神族の過去あり。私のお気に入りは綺羅と照三、彼らのために奮闘する煌四と明楽。灯子は未だ読み手の私にも掴みきれぬ子。けれど無私の意思を貫く信念、それが無力な筈の灯子から引き出す勇気、微力が滲ませる温かさに息をつく。ひとり静かに我が道を見出だして進む、火穂の姿がただ嬉しい。
読了日:09月24日 著者:日向 理恵子
鬼滅の刃 13 (ジャンプコミックス)鬼滅の刃 13 (ジャンプコミックス)感想
鬼と化した母を殺した兄、兄を責めたことを悔い続ける弟、不死川兄弟。鬼である妹と共に鬼を狩る炭治郎の姿が実弥の目にどう映るのか、考えると辛くなる。惨劇の当事者とならずにすんだ炭治郎、鬼となっても殺されずにいる禰豆子。そりゃあ刺すわ。とつい思ってしまうけど、竈門兄妹を認めることは和解の鍵となりそうだな、不死川兄弟にとって。こうして目の前に現れたことは、むしろ僥倖かもしれない。なんて書きつつもやはり、鬼にされ我が子らを手にかけた母親と、そうやって死んだ不死川の弟妹たちについ気持ちが動く。しんどい。
読了日:10月10日 著者:吾峠 呼世晴
鬼滅の刃 14 (ジャンプコミックス)鬼滅の刃 14 (ジャンプコミックス)感想
有一郎の余裕のなさに共感しかないママ世代読者様方、私もです。無一郎の無は無限の無だと言ってしまえるその心は、次世代へと夢を託し去っていく親のものだろうよ。有一郎に泣く。炭治郎が長男なら有一郎はもう母であり父でしょうよ、私は彼らの母親になって有一郎を抱きしめたい気持ちだよ。有一郎のおかげで無一郎を見る目が変わったよ、その人ひとりでそこに立っているわけじゃないものね誰だって。忘れられていてもずっと一緒にいたんだね。彼のためのこの子を、どうか殉職させないでやって下さい作者様。なんて願うのもこわい難儀な漫画よ。
読了日:10月10日 著者:吾峠 呼世晴
鬼滅の刃 15 (ジャンプコミックス)鬼滅の刃 15 (ジャンプコミックス)感想
いろんな人に「おかえり」と言いたい巻。いろいろ重たいもの背負ってる人が多い中で、みつりちゃんが可愛かったりカナヲが可憐だったり善逸がうるさかったり、あとあの隠しの人が地味にいいやつだったりすると、ああもうこのまま鬼屋敷の屋根に隕石落ちて大穴あいて、日に晒されてみんな真っ白な灰になればいいのになんて思ってしまう。とはいえ今後の展開に大きく関わってきそうななあれこれが明かされた重要な巻でもあります。義勇さんの自己否定はまだ根深そう、頬の痛みをきっかけに自分で自分を認められるようになるといいね。
読了日:10月10日 著者:吾峠 呼世晴
白銀の墟 玄の月 第一巻 十二国記 (新潮文庫)白銀の墟 玄の月 第一巻 十二国記 (新潮文庫)感想
内容についてはまだ触れません、かわりに思いの丈を。ティーンズハート悪霊シリーズ完結直後からの小野読者、ホワイトハート版で刊行を追いかけた筋金入りの十二国ファンなので、数えてみれば私は人生の丁度半分を泰麒と主上の行方を案じ、新刊を待ちながら過ごしていたことになる。もちろんそればかりで生きてきたわけではないけれど。同じ時期に夢中で読んだ「銀の海金の大地」が未完のまま氷室冴子先生が逝去された時、この十二国も同じ運命を辿らぬとも限らないと考えずにはいられなかった。読むのが勿体なくて本当に震えました。さあ、次巻へ。
読了日:10月14日 著者:小野 不由美
白銀の墟 玄の月 第二巻 十二国記 (新潮文庫)白銀の墟 玄の月 第二巻 十二国記 (新潮文庫)感想
新作刊行で内容は暁の続編と知った時、これで戴主従の再会が読めるんだと疑いもせず喜んだ私はどれだけおめでたい頭をしていたのか。18年も待たせてまさかこの展開はあるまいとは思うけれども、地道に埋められつつある外堀が怖い。永の沈黙の間自分を慰めるため好き勝手に思い描いていた<戴の未来>が今頃になって牙を剥く。心は信じたくない、あれは影武者なのではと思いたい。泰麒の心が見えなくて辛い、余裕のない李斎が辛い。続刊発売までの1ヶ月はシリーズ再読に充てようと思っていたけど、こうなるともう風の海の表紙も切ない。
読了日:10月15日 著者:小野 不由美
月の影  影の海 (上) 十二国記 1 (新潮文庫)月の影 影の海 (上) 十二国記 1 (新潮文庫)感想
戴国新刊発売を機に再読、徐々に物語へと入っていくこの手探り感が懐かしい。陽子の両親は当時からすでに化石じみた感覚の持ち主と思えたが、今見ると十二国側のジェンダー観との対比が鮮やか。神籍へ入るには人として一度死ぬと後述されるが、虚海の羊水で生まれ直した陽子はまさに裸一貫、暗中模索。とはいえ蓬山へ登る前にこの旅はぐんと器量を育てただろう。それはさておきシリーズ1作目の上巻まるごと使ってこの重苦しさ、読者を容赦なく篩にかけてくるものだわ。これも戴麒待機訓練の一環だったのかと思えてくる。
読了日:10月18日 著者:小野 不由美
月の影  影の海 (下) 十二国記 1 (新潮文庫)月の影 影の海 (下) 十二国記 1 (新潮文庫)感想
戴国新刊発売を機に再読。長く辛い序章をくぐり抜けてきた読者という名のサバイバーに、ご褒美てんこ盛りのありがたーい下巻。心優しく有能で何よりふかふかな仁の半獣楽俊、この出会いがなければ苦難の旅も陽子を人間不信にするだけで終わったろう。乗り越えられる陽子でよかった。それはそうと今回読み返して驚いたのは「今ちょっと障りがあるからな」の場面、あそこあんなメロドラマ風だったっけ?目からお砂糖こぼれたわ。ただそこからのラストは何度読んでいても圧巻の一言、景麒と一緒に忠誠を誓ってしまう。
読了日:10月18日 著者:小野 不由美
風の海 迷宮の岸 十二国記 2 (新潮文庫)風の海 迷宮の岸 十二国記 2 (新潮文庫)感想
戴国新刊発売を機に再読。在りし日の泰麒や李斎が眩しく、驍宗様の第一印象が悪かったことも懐かしく、ただただ甘美な蓬山の暮らしに酔いながら、彼奴さえ余計なことをしなければと歯噛みする。また前回いいとこなしだった景麒の人となり(人?)が垣間見えるのも楽しく、徐覚につい親近感を持ってしまう。だってあの堅物の不器用な優しさ、さらに微笑だもの!初読時も今もいとけない泰麒がただひたすらに愛おしく、この子を愛でているだけで私は幸せなのに、その運命ときたらもう。そもそものあの蝕が起こらなければどんなにか。。
読了日:10月20日 著者:小野 不由美
少年少女世界文学全集〈第1巻〉ピノッキオの冒険 国際版 (国際版 少年少女世界文学全集)少年少女世界文学全集〈第1巻〉ピノッキオの冒険 国際版 (国際版 少年少女世界文学全集)感想
【5歳1ヶ月】昭和51年初版。開くと必ず美しい挿画があり、章立ては区切りやすい長さ、文章はページを跨がない構成。1日2~3章ずつ、途中で飽きることもなく1ヶ月足らずで読み聞かせ完了。息子はこんなに長いお話を最後まで聞けたと嬉しそうにしています。内容は私も覚えていなかったので、物言う木切れにすぎなかったピノッキオが人間の子どもとなるまでの物語を息子と一緒に楽しむことができました。しかしまあ、荒唐無稽!冒険の始まりはいつもピノッキオの道草、けれどもこの説教のなさがいいんだろうな。テンポの良さは読み聞かせ向き。
読了日:10月26日 著者:
風の万里  黎明の空 (上) 十二国記 4 (新潮文庫)風の万里 黎明の空 (上) 十二国記 4 (新潮文庫)感想
戴国新刊発売を機に再読。月影並みに続く陰鬱さが記憶にあったけど、久々に読んでみると小さな見せ場が結構あって、楽しく読了。ただ鈴と祥瓊の章だけだったら、やっぱりしんどかっただろうな。思い悩みながらもすでに王としての成長期に入ろうとしている陽子の、からりとした図太さが見ていて清々しい。何より景麒とのやりとりが、というか振り回されたり惚れ直したりと忙しい景麒の様子が見ていてたまらなく愛しい。見るべき語るべきところはいくらでもあるけど、つい浮わついた感想になっちゃうな。
読了日:11月01日 著者:小野 不由美
風の万里  黎明の空 (下) 十二国記 4 (新潮文庫)風の万里 黎明の空 (下) 十二国記 4 (新潮文庫)感想
戴国新刊発売を機に再読。陽子、終始苦笑してるなあ。BSでアニメ化された時は月影の酷い改変にガックリきたものの、風の万里クライマックスの素晴らしさには胸高鳴った。この上下巻で映画1本いけそうだけども、半端な映像化はしてほしくないな。清秀や蘭玉の最期は何度読んでいてもやりきれない。鈴と祥瓊の試練はどちらも見ていて読み手の黒歴史が甦る、陥りがちな自意識の罠。そこを脱したあと語り合う三人娘の晴れやかな声、きな臭い背景との鮮烈なコントラスト。誰も欠けなくて本当によかった。そして最後はやはり陽子の初勅、これに尽きる。
読了日:11月04日 著者:小野 不由美
華胥の幽夢 (かしょのゆめ) 十二国記 7 (新潮文庫)華胥の幽夢 (かしょのゆめ) 十二国記 7 (新潮文庫)感想
戴国新刊発売を機に再読。采麟のキャラクターが苦手で読み返す時にも表題作は避けていたが、おかげでそうかこんなにミステリ色の強いお話だったのかと新鮮な気持ちで楽しめた。利広や風漢が無数に眺めてきた短命の王朝、砥尚はもしかすると祥瓊の父王と少し似ていたのかもしれない。高い理想と現実認識の甘さ、けれど最後まで気高く在り続けたその姿が。くらべてみるとやけに人間臭い奏や雁の玉座まわり。だからこその長命かと納得するが、そこに泰王を置くと少し不安。恥が苦手なあの高潔さ、芳や才に通じはしまいか。認識の甘さは感じないが。。
読了日:11月09日 著者:小野 不由美
白銀の墟 玄の月 第三巻 十二国記 (新潮文庫)白銀の墟 玄の月 第三巻 十二国記 (新潮文庫)感想
読了した今でこそようやく暁の天が見えてきた実感も湧くが、あの偽りの誓約の場面などはもう愕然としながら読んだ。精神的な凌辱ではないの、いや実際に血を流しているならそれ以上の。私の、とあえて言うけども、私の愛しい泰麒に何を。目の前が暗くなる。この期に及んでも正頼であり続けてくれた正頼にはもう涙しかない、生きていてくれて嬉しいとそれでも言いたい、泰麒とだけではなく主上とも再会してくれると信じてる。泰麒の心には異郷となった故郷があり、そこに残してきた人物があり、癒えない罪の意識がある。泰麒にこそ救われてほしい。
読了日:11月11日 著者:小野 不由美
白銀の墟 玄の月 第四巻 十二国記 (新潮文庫)白銀の墟 玄の月 第四巻 十二国記 (新潮文庫)感想
救出を待たず自力で脱出してくるあたりがさすが主上、そこから李斎との再会までの昂りときたら。けれども今作は違った、奇跡と逆転は確かにあった。けれどそこに痛快さはなく、胸に迫るのは名も挙がらずに消えていった心ある人々の影、その重み。前半で描き出された民の辛苦、下命とあれば否とは言えない兵卒の葛藤、泰麒や李斎の物語に終わらなかった。ああでも無粋を承知で言わせてほしい、王と麒麟にもっと会話を!泰麒の予後、慶主従だけでなく汕子との再会も見たい。けれどそんな我儘も、並んで養生する主上と正頼にほだされた。短編集も期待。
読了日:11月12日 著者:小野 不由美
久遠の庭 「十二国記」 画集 (第一集)久遠の庭 「十二国記」 画集 (第一集)感想
新潮文庫版で揃え直した際、WH版を手放してしまっているので、こうして見ると懐かしいやら惜しいやら。もちろんそのへん狙いの画集刊行、あざといけれど有難いのも確かだわ。当時も今もお気に入りの表紙絵は風の海2作、合わせても400ページいかないのに上下巻組なのはこの表紙のためだと今も思う。面白いのはネズミ姿の楽俊で、シリーズが下るほどデフォルメが効き可愛らしくなっていく。青年姿も慎み深くて好印象。挿画の墨絵はやはり竹ペンと筆なのか、このサイズで見ると線の掠れも生々しい。抜け感があり、手数は多くても筆は速そう。
読了日:11月16日 著者:山田 章博
魔性の子 十二国記 0 (新潮文庫)魔性の子 十二国記 0 (新潮文庫)感想
戴国新刊発売を機に再読、風の海&白銀バレ注意。高里が泰麒としての記憶を取り戻す場面見たさに手に取るも、ホラーをホラーとしてのみ読めこなせず思わぬ苦しさに見舞われる。自身のエゴを高里に押し付ける広瀬を哀れな若者だと諦め、許せないと切って捨てていた高里母の振る舞いを痛ましく身近に思えるほどには、初読時から時が経ち私の感覚も変化したのだろう。幼い泰麒を愛でるあまり失念しかけていたけれど、高里要としての人生はすでに神隠し前から過酷だったのだ。さらに凄惨に過ぎた数々の事件、白銀での彼はなるべくしてなった姿だと納得。
読了日:11月23日 著者:小野 不由美
ノラネコぐんだん カレーライス (コドモエのえほん)ノラネコぐんだん カレーライス (コドモエのえほん)感想
【5歳1ヶ月】サイン会にて購入。緊張して喋れない私に笑いかけ、息子を手元に呼んで下さり、目の前でサイン。ご本人はベリショの似合う小柄な方で、緑色のジャケットがお洒落でした。今回もノラネコぐんだんのいたずらとワンワンちゃんのお説教タイム、という大筋はそのまま、ただしドッカーンのかわりに。。息子も私もトラのおやぶんが大好きなのに、お伝えしそびれちゃったなあ。言わずと知れた人気作家さんですが、出会いは書店で児童書担当をしていたころ手に取ったピヨピヨシリーズ。今も実はあちらが本命です。エビのカレー、食べたいな。
読了日:11月23日 著者:工藤 ノリコ
黄昏の岸 暁の天 十二国記 8 (新潮文庫)黄昏の岸 暁の天 十二国記 8 (新潮文庫)感想
戴国新刊発売を機に再読、白銀バレ注意。「見る目がある」発言が小物っぽくて驍宗様の第一印象が悪かったこと、柔和で鷹揚な李斎に泰麒の主となって欲しかったことなど、忘れていた初読の昔を思い出す。けれど白銀に続く受難の李斎にその面影はなく、利き腕を失って死の淵を彷徨い、期待と失望に翻弄されながら泰麒を求める姿はひたすらに痛ましい。そこを混ぜっ返してくれる慶の面々に救われながら、これを戴朝廷で読みたいと夢見て裏切られる。思えば今巻の内容から玉京に触れる新刊展開を予想したものだけど、そこも秘されたままだったなあ。
読了日:11月26日 著者:小野 不由美
東の海神(わだつみ)  西の滄海 十二国記 3 (新潮文庫)東の海神(わだつみ) 西の滄海 十二国記 3 (新潮文庫)感想
戴国新刊発売を機に再読。十二国の中でも安定感抜群の雁、そのため却って人物には思い入れを持たずにきた。今回は意識して更夜視点で読んでみようと、けれども至らなかった。せめて彼にとっての斡由がどれほどのものか、腹に落とし込みたかったのだけど。冒頭では此岸と彼岸に等しく満ちた血のにおい、更夜には荒野の音が、六太には芥の音が低く重なる。緑の山野とはそれのみではなく、眺める者の心を含めて言うのだろう。五百年のち約束は成就されたのか。妖魔を迎える証文はそれより早かったようだけど、麒麟の願いが民意に具現化されますように。
読了日:12月02日 著者:小野 不由美
図南の翼 (となんのつばさ) 十二国記 6 (新潮文庫)図南の翼 (となんのつばさ) 十二国記 6 (新潮文庫)感想
戴国新刊発売を機に再読。この珠晶と遠子(白鳥異伝)がとにかく大好きで、飽くことなく読み返した十代の頃を思い出す。あれから二十年経って久しぶりに項を開いたけれど、事細かに覚えている内容を辿りながらもやはり面白く読めることに改めて驚く。頑丘たちと別れてからの急展開に息をつめ、天仙の正体に万感の想いを新たに、そして何よりも珠晶の叫びに心を掴まれる。珠晶の目的は己を肯定することで、異世界を放浪した陽子が結果的に身につけた最強の武器もこれ、つまりは自分自身の王であるということ。背筋が伸びる思いで本を閉じた。
読了日:12月06日 著者:小野 不由美
丕緒の鳥 (ひしょのとり)  十二国記 5 (新潮文庫)丕緒の鳥 (ひしょのとり) 十二国記 5 (新潮文庫)感想
戴国新刊発売を機に再読。下っ端官吏や荒民が主役のお仕事短編四つ。「青条の蘭」善意のリレーに小栗判官を想起、山毛欅林を救う青条に死から蘇った小栗が重なる。国境を前に踏み留まる故郷なき民、興慶が辛く切ない。いつか黄朱メインの長編を読んでみたい。「風信」戸外の嵐を忘れなければ癒えない傷はある。けれど最後の一行まで鮮血流れる傷口に向き合えなかった蓮花に、忘失は癒しよりも緊張を与えていたのか。その糸が切れたあとの日々、心から笑う蓮花の頭上には巣立ったばかりの燕が翔んでいるのだろう。漣王の言う仕事とお役目を思い出す。
読了日:12月13日 著者:小野 不由美
営繕かるかや怪異譚 その弐営繕かるかや怪異譚 その弐感想
人の営み、人でないものの営みを繕い、間を取り持つシリーズ第二弾。胸に残るのは「まつとしきかば」、猫の帰りを待つ男の子と、飼い主の帰りを待つ猫たち。死が阻み叶えられるはずのない二つの願いが、小さな猫用ドアを介して巡りあう。それははじめ怪異を呼び、繕われて後は新しい風を呼ぶ。同じようにして飼い猫を通わせた田舎の家を思い出し、航に歳の近い我が子を重ね、片親家庭を営む父親の優柔不断にやりきれない親しみを覚える。閉ざすためではなく迎え入れるためのドア、これをこそ営繕と言うのだろう。寂しい魂が潜るそれは鳥居のようだ。
読了日:12月15日 著者:小野 不由美
ねずみのモナと秘密のドア (ハートウッドホテル)ねずみのモナと秘密のドア (ハートウッドホテル)感想
姪がお小遣いで買った本を貸してくれたのは「かがみの孤城」「神隠しの教室」以来。表紙が可愛かったから、と笑う彼女は小6にして中々の食わせ者。けれどもどんなお話かと身構えるまでもなく、見たままの柔らかな物語を好む一面を、あの子もしっかり持っているのだった。嵐で家を失ったねずみのモナが行き着いたのは、森中の小さな動物たちが集まるホテルだった。大人目線では正直物足りない筋だったけれど、大木にランプを飾ったモナがそれを見上げ、自分を大きく感じるあの場面は好きだったな。ラストはお約束ながらも好印象、次巻も楽しみ。
読了日:12月20日 著者:ケイリー・ジョージ
ねずみのモナと最高のおくりもの (ハートウッドホテル)ねずみのモナと最高のおくりもの (ハートウッドホテル)感想
姪が借してくれた本。ホテルの面々に馴染みができてきたおかげで前作よりずっと楽しめた。その分みなしごモナの世事にうとい様子が切なくもあったけれど、メイドとして自信をつけていく様子は頼もしく、ティリーとの不器用な友情は微笑ましく、何よりオヤスミ聖人やオハヨウ聖人のお祭りの、楽しそうなことと言ったら!前作のネムリンボウさんにも感じたけれど、冬眠や冬ごもりって凄いシステムだなあ。今作ではティリーに訪れたサプライズだけでなく、気難しがりやの公爵に降ってきたそれも、お約束ではあるけれど素直に嬉しい。良い時期に読めた。
読了日:12月26日 著者:ケイリー・ジョージ

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